九州橋頭堡6



「狂瀾は既倒に廻らず」


 何時、爆発てもおかしくなかった火薬庫に遂に火が着いてしまった。
泥棒田 コウモリマンの死はまさに烽火であり同時に火薬庫への点火だった。
暴徒化した民衆は警察署や市役所などの官庁を攻撃し始めた。
 「連中を鎮圧しろ!手段は問わん」
幽霊館(九州軍司令部)では残った官僚達が必死に立て直しを図っていた。
「首謀者は共産シンパか猫舌派のどちらかだ。
米軍に応援要請を、霞ヶ関にも連絡しろ!」
書類が散乱し板に張られた地図には赤いXが複数描かれている。
またXが描き込まれた。
「クソ、またやられた。天神(福岡県県庁舎)は無事か?」
指揮官は悪くなる一方の状況に頭を抱えていた。


 「苛政は虎より猛し!」
猫舌派と思われる集団が県庁舎への攻撃を開始。
秘匿していたと思われる火器や米軍の横流し品などで武装している。
庁舎に立て篭もった外道川兵は窓から発砲する。
そこへ擲弾筒が打ち込まれる。

 一方、板付基地(席田飛行場)は厳戒態勢の米兵が周囲の無人地帯を警戒していた。
「帝国主義者を倒せ!人民に力を!」
学生や労働者と思われる集団が米軍施設へ向けて押し寄せてきた。
「これ以上近付くべからず」と書かれた立て札を蹴り飛ばし暴徒は基地へ押し寄せる。
米兵は逡巡した。
『民間人』との問題は起こさないようにと言われている。
だが目の前に居るのは明らかに『一線』を越えた人々だ。
指揮官が躊躇っていると突然、自身の頭が破裂した。
「撃て!」
狙撃と判断した次席指揮官は射撃を命じる。
弾丸は暴徒を打ち倒し管制地雷が作動し彼らを巻き上げた。

 手製の迫撃砲らしき代物が次々と基地へ打ち込まれた。
正確に照準などしなくても撃てば基地内に落ちるので彼らは次々と打ち込んだ。
 「連中をジョーモン・エイジに戻して来い!」
基地内の米軍は迫撃砲弾が降る中、待機していた観測機改造簡易攻撃機に出撃を命じた。
「どこを狙って撃っているんだ!」
あまりにもいい加減な精度の砲撃でどこへ落ちるのか見当もつかない中パイロット達は走った。

 既に暖気済みの機体は順調に加速し次々と離陸していく。
離陸中の5番機がいきなり射撃を浴びて爆発した。
「クソッ!噂のブラット・ニックだ!」
管制官が悪態をつく。
レシプロ双発機が滑走路上の機体へ射撃を浴びせる。
対空火器にロケットを撃ちこみ次々と制圧していく。
施設設備も手当たり次第に破壊していく。

 レーダーはここ最近頻発した破壊工作で使用不能であった事もあり全てが後手に回る。
簡易攻撃機隊はあっという間に壊滅し屠龍(ニック)は我が物顔で飛び回る。
流れ弾が防御施設の一部を吹き飛ばしそこから暴徒が突入してきた。
暴徒そのものは撃退したが航空基地機能そのものを喪失した。
近隣の基地から迎撃機を上げても“ブラット・ニック”は行方知れず。
圧倒的優勢に有った米・外道川軍寄りのパワーバランスが崩れつつあった。



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