九州橋頭堡42

「門司城跡の戦い」

 門司城跡地がある古城山の麓の藪に小道具を仕掛け斜面を後進しながら登る。
「どこの隊だ?」
無線機から砲台側の指揮官が尋ねた、そこへ藪からロケット弾が放たれ戦車隊の傍を掠めていく。
「浸透中の敵部隊と交戦中、敵は軽装備ながら対戦車火器は充実しているぞ」
「もうここまで来ているのか!」
ケンジは無線機で質問を遮るように答えた。
戦車隊は砲塔銃で『敵浸透部隊』を牽制しつつ後退を続ける。
『敵浸透部隊』も機関銃で反撃してきた。
「榴弾を使え!構わん吹き飛ばせ」
砲台側から指示が飛ぶ。
「了解、各隊ロケットを使え」
バーガー隊のパーシングは砲塔の両側面にロケット発射機が取り付けられている。
T99と呼ばれる多連装発射機だ。
90mm砲と連動して発射機の角度が下がり砲口は『敵浸透部隊』を睨む。
「撃て!」
各車両の4.5インチのロケット弾は骨組みだけの発射機から飛び出し目標の近くに命中した。

「どこを撃っているんだ!使い方をわかっているのか」
砲台側から罵声が浴びせられる。
ロケット弾は『敵浸透部隊』ではなく真後ろの砲台へ向けて飛んで行ったからだ。
「説明書なら読んだぞ、全弾撃て」
照準を修正し残りのロケット弾を全て目標に向けて放った。
ロケット弾は砲台の観測設備や特火点などの重要設備を捉え破壊していく。
「発射機を投棄、敵陣を蹂躙しろ!」
砲塔両側面の多連装発射機が勢いよく破棄されて歩兵を載せていた車両から歩兵達が飛び出していく。
「?!……クソッ、敵だ!」
バーガー隊の意図に気が付いた砲台側は反撃を開始するも既に防御設備が破壊されており効果的に戦えていない。
(チャンネルを変えたな)
砲台側の無線が入らなくなった。
「歩兵は戦車を支援しながら敵を掃討しろ」
バーガー隊はお互いに支援を繰り返しながら砲台を制圧していく。
連絡を受けたのか沖の敵艦が探照灯を照射し彼らを照らす。
「急げ、艦砲に吹き飛ばされるぞ」
ケンジは焦っていた、何故なら彼らのいる場所は門司城跡地北の斜面である。
沖の艦隊や山口県側の砲兵が砲撃を浴びせるには最適な場所だ、それゆえに東や南東の斜面に比べて防御が手薄なのだ。
バズーカ対策に取り付けた増加装甲にロケット弾が命中し虚空に爆ぜた。

「敵防衛線を突っ切れ!そこから各自敵部隊を掃討しろ」
ケンジは敵に対戦車砲が無いことに賭けた、バズーカや無反動砲の類なら増加装甲でなんとかなる。
バーガー隊は外道川軍の残置した対戦車砲が配置されてない事を祈りながら敵陣に突入した。


 「砲台から赤外線信号です」
真・日本国軍の前線司令部では混戦が続き各隊の状況を把握しきれていなかった。
砲台側から赤外線投光器を発光信号よろしく点滅させて送っているのだ。
逆上陸作戦が始まった当初、米・外道川軍は赤外線暗視装置を多用していたのだが
赤外線の利用に関しては旧軍時代から気合を入れて開発していただけに真・日本国軍側に察知されてしまい
照射装置を持った兵士が闇夜に提灯状態で集中射撃を浴びる事態が頻発、スーパー・イラン帝国やゲリラ相手以外には使われなくなっていた。
中にはそれを利用して陽動をしたり火点を暴いて反撃する知恵者も居たが。

そして態々照射装置をこまめに点滅させるような運用は普通はしないのでそれがモールス信号であるのは受像装置があれば一目瞭然だ。
「バーガー隊、敵砲台を制圧。敵支援艦艇の位置は……」
砲台のすぐ近くに居る火力支援艦艇の位置を発送して来た。
夜間機隊は眼前の敵機で精一杯である現状においてこの情報は貴重である。
野砲隊の砲撃が始まりその火網が敵艦を捉えた。
集中砲火を浴びて甲板に並べてられていたロケット弾が誘爆、火力支援艇は大爆発しながら沈んでいった。

 「このままだと奪い返されるぞ」
砲台では制圧したバーガー隊と逆襲してくる米兵との戦闘が続いていた。
「司令部からはもうじき増援が来るので待てと」
「敵中に孤立しているのに増援も何もあるか!」
ケンジは通信兵にあたりながら砲撃目標を指示する。
筆立山の反斜面陣地に砲弾を叩き込み敵火点を撃破する。
砲台側から見ると南南東にある筆立山は更に南の門司港方面からの攻撃を前提に陣地が作られているので門司城跡からだとちょうど背後ををとった形になる。
そしてその間の防衛線も南からの攻撃が前提であり北にある砲台へ遅滞戦闘をしながらの退却に最適化されている。
即ち砲台側に有利な構造である、少数のバーガー隊が維持できるのはその為だ。
しかしだからと怯む相手ではなく果敢な攻撃続く。
「クソッ!煙幕を焚きやがった突っ込んでくるぞ」
煙幕の後にあるのは突撃なのが相場だ煙幕から敵が飛び出すのを待つ。
轟音を立てて煙幕から飛び出した何かがケンジの傍を通過していった。
「何だ、今のは?!」
流石に何が起きたか把握できなかった。
そこから視線を引き戻すように喊声をあげて米兵が突進してくる、煙幕から飛び出した彼らは損害を厭わずに攻めかかる。
「味方増援が到着、こちらへ向かうと」
「ああ、早くしてくれ。いつ突破されるかわからん」
伝令の報告を受け再度周囲を警戒する、少し間を置いて敵第二波が殺到してきた。
(敵の方が早かったか)

「援護する、頭を下げてくれ」
通信機から日本語で指示が飛び怪訝な表情をしながらケンジは部下に命じた。
背後から彼らの頭上を機関銃の射撃が越えていく。
「後ろ?!まさか」
ケンジは何が起きているのか察した。

先程の何かはグライダーだったのだ。
撃墜された機体が不時着したものと思っていたが不時着ではなく『計算された墜落』だ。
ドラッグシュートを使った力業で着陸し展開に少し手間取ったようだが何とか間に合ったのだ。
門司城跡の戦いの勝敗が決した瞬間であった。


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