九州橋頭堡4


「『大世紀』に程遠く」


 大分から米軍が退いた事により別府湾沿いを無人の野を駆けるが如く制圧していく。
だがその快進撃も中津で止まった。
米・外道川軍は残存部隊を県境の山国川より先に集めて福岡県への侵攻を阻止しようと言うのだ。
真・日本国軍も無理攻めできるほど余裕は無くそこで停止を余儀なくされる。

熊本では敗走する外道川軍諸隊を追撃して福岡県に入る。
が、柳川市における市街地戦で掘割を利用した外道川軍との戦いに損害を増やす一方だった。

天草地方を北上した旧洋食軍団・旧死神軍は熊本進行軍と併進し島原への上陸を果たす。
しかし長崎に近付くにつれ米・外道川軍の反撃が強くなる一方。
逆に島原支隊は補給線が伸び苦戦を余儀なくされた。


真・日本国側にとって頭が痛いのは米軍の圧倒的航空兵力の存在である。
席田飛行場(福岡空港)に展開する米空軍はその戦力を殆ど朝鮮半島に向けている為、今まで問題にはならなかったが朝鮮半島における戦闘次第ではこちらに振り向けてくる可能性は飛躍的に上昇する。
もう一つの米航空兵力……佐世保の米海軍だ。
こちらも余裕が無いから飛んでこないだけで朝鮮の戦争が一段落すればすぐに主力をこちらに向けるだろう。
真・日本国軍が九州に上陸し北進し続ける間、北朝鮮とその背後に居る中共は大攻勢を実施。
膠着していた戦線を一気に流動化させた。
ソ連も東西両国境の部隊を頻繁に動かして国連軍にプレッシャーを与え続けている。

真・日本国は東西両陣営に喧嘩を売っている状態なので一歩間違えれば両者から叩かれる可能性が高かったが、東側は今のところは真・日本国が暴れればそれだけ自陣営へのプレッシャーが減るので中共以外は露骨に敵対的ではない。
西側も植民地の独立運動を抑えるので手一杯な国や義理立てと言ったものが多く本気で動いているのは当の韓国や外道川政権ぐらいで米国もソ連との睨みあいと長期化による厭戦状態で日に日に士気が落ちている。
それもあって真・日本国軍は蜂の巣(米軍基地)を突かない様に神経を尖らせながらの進攻は困難を極めた。


 小倉城跡地に立てられた怪しげな館……地元住民は「幽霊館」と呼んでいた。
おどろおどろしい洋館に仕立て上げた庁舎、これは館の主の趣味である。
館の主……北部九州軍司令官である泥棒田 コウモリマンはシルクハットに猿皮の陣羽織を羽織る見るからに傲慢そうな老人である。
この人物は真・日本国軍による九州上陸のドサクサに紛れて県知事選挙を強行。
見事再選し福岡県知事の座を守った。
もっともこの選挙は投票率100%と言うどう見ても力づくで勝利したとしか言えない怪しさ炸裂なものではあったが……。

「太陽王陛下、お夕食でございます」
20世紀とは思えない服装の執事が恭しく告げる。
コウモリマンは自らを「太陽王」と名乗り周囲にそう呼ぶように躾けている。
巨大な食卓には清の皇帝かと思いたくなるような種類の料理が並ぶ。
太陽王は次から次へと口の中に料理を放り込んだ。
汚い、とにかく汚い。
食べ方が王を称するには汚すぎる。
これが絵に描いたようなヴァイキング見たいな服装なら兎も角、紳士気取りの服装でこんな食べ方をしたら見苦しいことこの上ない。
品のない成金でももう少し品のある食べ方をする。

しかも食通気取りも兼ねているらしく一々料理のメニューを論評する。
その論評も聞くに堪えない稚拙なもので「黙って食え」としか言いようがない

太陽王は突然不機嫌そうな顔をする。
「なんだこの蕎麦は!」
太陽王は巨大な食卓を足蹴りした。
「蕎麦は塩だろうが!」
そう叫び料理人を足蹴りする。
簡単に言うと俗物かつ畜生、歪んだ拘りと権威が認定した物を礼賛するだけの存在である。

豪華な宮殿を造ると豪語し巨額の税金を取り立て、それでも飽き足らず巨大な三角形の墓を造ろうとした。
他にも陶器の人形兵士を大量に作らせたり、「ローマに火を放ちたい」とか言ったりどこをどう考えたらこんな人物が司令官になれるのか不思議なくらいである。
当然ながら地元住民からの恨みと言う単語では整理しきれないレベルのものを溜め込んでいる。

「太陽王陛下、外道川首相からの電話でございます」
彼は執事の言葉に動きを止め、慌てて受話器を掴んだ。


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