九州橋頭堡34
「死の機甲」

 神代村に一番乗りしたのはバーガー屋のケンジ率いる「洋食軍団・バーガー隊」だ。
彼らはM3スチュアートなどの米国製装甲車両に乗り、路上の敵軍を蹴散らしながら突入した。
特にM3軽戦車の車体両側のスポンソンに取り付けられた7.62mm機関銃を乱射しながらの突進は
敵兵が経験不足なら十分威嚇効果はあった。
歩兵はトミーガンを手に装甲車から飛び降り周囲を制圧していく。
「通信部隊が見つからない?なら野戦重砲からやれ」
無線機で怒鳴りながら周囲を見張る。
頭上には照明弾が燦然と輝き敵も味方もよくわかる。

次に神代村陣地に殺到したのは山側ルートを突破した旧パイルドライバー軍だ。
火山技術を駆使する彼らにとって火の国、いや火山だらけの日本は戦うには最適とも言える土地だ。
敵司令部らしき建物を焼き討ちし指揮系統の破壊を目論むが投降してきた諸派の長達に県知事は不在だと告げられた。

三番手に到着した海沿いを突破した機械化軍団のザムザン隊長からそれらしき敵は発見できなかったと連絡を受け
移動司令部にいた風呂戸 葉須磨中将は頭を抱えたいがそうする訳にもいかない。

夜が明けていく。
敵重砲と拠点は陥したがまだ神代村から島原城防衛線までの間、十数キロの一帯に両軍将兵が入り乱れ戦闘を続けている。
防衛線背後に展開している真・日本国軍の重砲隊は主だった砲弾は既に残り1基数を割り込んでいる。
おまけに一晩中撃ち続けていたので火砲も兵員も限界に達しつつある。
神代村拠点へ西九州軍主力による襲撃で確保した砲兵火力の優勢はもうじき失われる。

夜間攻勢によって数の劣勢をカバーしたが、日が昇れば彼我の配置は丸分かりで
総兵力では西九州軍が劣る以上、各個撃破されるの時間の問題だ。
神代村に突進部隊を集結させて守りを固めるか、このまま勢い任せに敵司令官を捕捉するまで攻撃を続行するか。
前者は防衛線が残った部隊だけになり陥落する危険性が高く、後者は各隊の疲労と損害を考えると現実的ではない。
「中将、総司令部から電文が」
解読された内容を風呂戸中将は噛り付くように読む。


 「知事、神代村の本拠地が陥落しました」
伝令の言葉を聞き彼は自分の悪運の強さに冷や汗をかいた。
知事とその司令部スタッフの護衛、さらに通信部隊を付けて防衛線へ督戦しに出たのだが
目の前を真・日本国軍の戦車部隊が猛然と横切って行ったのだ。
間一髪で襲撃を回避できたが重砲兵は壊滅、拠点に籠っていた部隊も叩き潰され補給はもう無い。
「主力で拠点を襲撃したなら防衛線に残っている敵兵はそう多くない」
情報スタッフはスパイの情報をまとめ彼我の状況を推測した。
「重砲の弾薬量もあれだけ撃てば補給力から見てしばらくは控えるでしょう」
後に真・日本国側が驚く程、彼らの予測は当たっていた。
「ならばこのまま防衛線を打ち破って背後の味方と合流する、南有馬の天草諸島勢に堂崎の橋頭堡を叩くように伝えろ」
「はっ!」
スタッフは各隊に通信を試みた。

そこへ銃声が響き信号弾が上がった。
「知事、赤襷の連中に見つかりました!」

真・日本国側についた勢力で赤襷隊と呼ばれる部隊があった。
斥侯部隊として先行し「死の機甲」とまで言われた西九州軍の神代村襲撃を成功させた功労者達だ。
スーパー・イラン帝国及びそれに追随する諸派の中には天草 八郎のように乱暴狼藉を働く者もおり
彼らは親族や友人をそう言った理由で失ったもの達である。
報復を誓う彼らは西九州軍の突撃においては識別用に赤色の襷を掛け混戦の最中、決死の誘導を続けた。
そして神代村拠点が落ちた今、血眼になって司令部を探していたのだろう。
「敵の襲撃部隊に捕捉される前に攻城部隊に合流するぞ」
知事の決断は早かった。
敵防衛線を貫くのが先か、猫舌派に挟まれるのが先かどちらにしろこの場に留まるのは死への最短コースだ。
日が昇ればこちらの位置は丸分かりであり敵は残存するありとあらゆる火力を投じてくるだろう。
とにかく合流しなければと皆焦っていた。

「なんだあれは?!」
だが恐れていた事態は思った以上に早かった。
「骸骨?あの反救世主は死者蘇生術までも使うというのか!」
彼らが遭遇したのは洋食軍団・バーガー隊から逸れたモンデーン隊だ。
バーガー隊と共に移動していたが途中で分断されて迂回し続けた結果ここに居た。
モンデーン隊は軽装備だったので強火力な敵部隊との交戦を避けていたが信号弾に気が付き殺到してきたのだ。
骸骨兵士が群れを成して突撃を仕掛けてくる、彼らは盾と剣と言う白兵戦に特化した装備だが
小規模な護衛と通信部隊の火力を飽和させる程の数が居た。
いくら撃ち砕いても次から次へと殺到する状況に逆に護衛が士気を打ち砕かれてしまう。

前県知事は経文を唱え骸骨兵士を寄せ付けないが既に包囲されていた。
だがいくら命じても骸骨兵士は何故かそれ以上近づかない。
「モンデーン様、軍司令部から電文が」
伝令から渡された文を見るなり目を見開いた。
「敵の通信部隊の機材は無事か?」
「はっ」

腹を決めたのか名うての者なのか西洋甲冑のような物を着た悪魔族が槍を構える。
経を唱え続ける知事も見据えながら息を吐き大きく踏み込む。

そこへ耳を劈く鳴音が襲い立ち止まった。
「……ラン軍の諸君
私は、副棒庵 八貫の弟、六貫である。
そもそも、私は家督を……」
戦場を拡声器から発せられた大音量の声が波のように広まる。
六貫の演説がラジオを通じて九州各地へと飛んでいるのだ。


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