九州橋頭堡26
「包囲」

栗河内

 スーパー・イラン帝国側に付いた諸隊の猛攻が続き秋月・豊津連合軍は劣勢に立たされていた。
「真・日本国の増援はまだか!」
諸隊の山狩りが始まり確実に包囲されつつある。
時折、大口径砲の砲声が聞こえるが遠くからだ、頭上を真・日本国軍の偵察機が通過するがこちらに気付いていないのかそのまま飛び去ってしまう。
このままでは党を解散して自刃か秋月へ戻り討ち死に覚悟で敵拠点をを焼き払うかしかない。
捕まっても死は確実、ならば決死行でも可能性がある久留米方面へ落ち延びるかと相談していた。
銃声が聞こえ始めた。
「信者共に見つかったぞ!」
伝令が息を切らしながら言う。
曳光弾が木々の間を縫うように飛び、弾丸は土や木に穴を穿つ。
「こうなったら血路を啓く他あるまい」
負傷者が増え始めいよいよかと皆、悲壮的な覚悟を決めつつあったその最中に眩い光が空を覆った。

直後になんとも表現できない不気味な音が響いた、あまりにも非常識な事象に両軍共に戦闘を忘れてしまう。

数分後に思い出したかのように敵は攻撃を再開したがこちらの存在に気付いたのか九八式直協機が緩降下し敵軍を爆撃する。
直後に突撃喇叭を鳴らし喊声が木々を駆け抜けて行く、それに対して不利だと判断したのか包囲していた諸隊は撤退して行く。
「遅かったじゃないか」
斥候の真・日本国兵を見た指揮官は安堵のあまり倒れた。

乃木 文乃指揮下の独立歩兵第14連隊は筑後川沿いに東進し浮羽郡を抜け大分県西部の日田方面まで迂回して
延伸工事中の日田線を使い北上、国道211号を伝い山道を抜け辛くも辿り着いたのだ。


境原

 巨大鋼鉄神像は眩い光を放ち亡霊の断末魔の様な音を立てながら消えていった。
その場に居た誰もが言葉を失った。
戦場にはただ急上昇していく彗星のエンジン音だけが響く。

「巨大鉄像を撃破!目標は完全に消滅」
伝令が内容を告げると真・日本国軍本営は歓声が起きた。
犬猿の仲の参謀達が歓喜のあまりに抱き合うぐらいである。
二つの正攻法が失敗していただけにその成功は大きく響いた瞑目していた猫舌ですらその喜びを隠せないで居た。
彼は間を置いて目を開き席から立ち上がり口を開いた。
「最大の懸案は片付いた、作戦を第二段階へ移行する」
各自配置に戻り作戦が継続される。

配置転換を終えた真・日本国軍の野砲が火を噴いた。
何発か榴弾が地面を掘り返した後、砲撃の密度が上がりだす。
「天草様!お気を確かに」
頭上で谷岡爆弾が炸裂した影響か天草はうわ言を垂れながら戦場を彷徨っていたところをスーパー・イラン帝国兵に保護された。
壊滅的損害を受けた天草隊は付近の友軍に収容され方向転換を進める。
切り札の巨大鉄像を失い最早残っているのは大教祖大帝王である副棒案 八貫の威光だけである。
「退け!退け!」
求心力のある八貫の近くに戻らなければ統制力が失われてただの雑軍と化してしまうと考え天草隊に後続していた諸隊は引き返し始める。

 境原を脱したスーパー・イラン帝国軍先鋒は田手川東岸に陣を構え猫舌派の別働隊に備えた。
朝日山から境原まで南西に約20km、境原から沖の真・日本国艦隊までだ同じく南西へ約20kmなのでちょうど半分ぐらいの位置まで進んだがそれまでだった。
最後の切り札であった谷岡爆弾がなければ天草の目論見は成功していただろう。
だが天は彼らに味方しなかった、谷岡爆弾が一回目で命中し巨大鋼鉄神像は光と共に消えていった。
巨大鉄像を失っても潰走しなかったのはひとえに八貫の威光の為せる業かもしれない。

田手川から寒水川までの約6km間にスーパー・イラン帝国軍主力が集結した。
既に日は傾きつつあり夜襲に警戒しつつスーパー・イラン帝国首脳は今後の策を練る。
寒水川西岸は東岸に比べ高台であり朝日山方面から追撃する真・日本国軍主力を瞰射できる絶好の場所だ。
だが逆に田手川東岸陣地は西岸側が高台なので不利なので特に警戒が必要である。
ちなみに西岸の高台はよく土器が見つかるらしい。

副棒庵 六貫坊は特使としてスーパー・イラン帝国軍に投降を呼びかけるべく川を渡って行く。
真・日本国軍将兵が心配そうに白髪の老僧を見守った。



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