九州橋頭堡24

「攻撃開始」


 風呂戸中将の発案で動き出した対巨大鉄像作戦は第一段階へ入った。
朝日山からスーパー・イラン帝国軍を追い出すべく最前線の砲兵部隊の攻撃が始まる。
反撃をした迫撃砲部隊は上空で待機していた襲撃機部隊の攻撃に曝され数を減じていく。
だが思った以上に彼らは動かない。
爆撃を終えた襲撃機隊が基地へ帰っても動かない。
「こちらの意図を読まれたか?」
本営の参謀達は追い出しがうまくいかない事に業を煮やし受話器を握った。

「友軍に当たらないギリギリでもこれが限界です」
砲術参謀が示した図には朝日山を中心とした円が描かれている。
「線路や友軍陣地が入っているな、少しずらすか」
砲撃目標を北西に修正し友軍陣地から少しでも距離をとる。
「観測機隊と水上重砲隊に目標の修正を連絡しろ」
「武蔵」の艦内でも準備は進み攻撃開始時刻を待つ。

「主砲射撃用意」
艦隊司令長官は片手を挙げ懐中時計を見つめた。
「テーッ!」
号令と共に手を振り下ろした。

武蔵を初めとする火力投射部隊の砲撃が始まった。
猫舌の居る本営や周辺地域に腹に響く砲声が響き渡り状況を知らない人々は混乱した。

 「始まったな」
埴針は腕時計に目を落とし時間を確認した。
「各自、擬装が吹き飛ばないように注意しろ!」
各隊指揮官が将兵に注意をする。

「ようやく収まったか……」
朝日山陣地では兵の動揺が激しく統制を回復するのに梃子摺っていた。
だが先程とは桁違いの激しい衝撃が再び朝日山一帯を襲う、旗竿は折れてリンゴの絵は空を舞った。
兵が土砂が被さった旗印を拾うと再び衝撃が襲う。
今度は飛ばされなかったがそれはスーパー・イラン帝国軍主力へ近づいている。
「砲撃が近づいてくるぞ」
暴徒を組織化しただけの民兵である、即座に混乱状態に陥った。
「ええい、何を狼狽している!我等には巨大鋼鉄神像が居るのだぞ!!」
天草 八郎は民兵達を前に一喝して収束させた。
「猫舌派艦隊め、忌々しい虫ケラ共が!」
砲撃で揺れる本陣の空気は殺気立っている。
「佐東将軍、巨大鋼鉄神像で連中を水底へ叩き込んでみせましょう!」
天草が猫舌派艦隊への攻撃を進言し即座に了承されて行動へ移った。


 先頭に巨大鉄像を立てその周囲に天草隊を配置、少し離れてスーパー・イラン帝国軍主力が続く。
距離を取り過ぎれば猫舌派の攻撃に遭い近すぎれば巨大鉄像への流れ弾が当たる。
外れた徹甲弾が地面を掘り返すのを間近に見ながら彼らは進む。

武蔵の放った1tを軽く越える徹甲弾が直撃するも巨大鉄像はよろけただけでかすり傷程度でしかない。
「どうだ猫舌の手下共!!巨大鋼鉄神像は無敵だ」
天草は興奮するあまり槌を振り回し始める、スーパー・イラン帝国軍の士気も最高潮に達する。
だが彼らの頭上から無数の重低音が響き渡り始めた。
大重量爆弾を搭載した大型機部隊である。
深山等の大型陸攻や三発・四発の輸送機群が列を成し巨大鉄像を狙っている。
 「地上の友軍から距離は取れた、よし照準が整い次第投下しろ」
先頭の深山隊の爆弾投下に合わせて輸送機隊も投下し始めた。
投下を終えた各隊は散開し基地への帰投して行く。

徹甲爆弾に始まり粘着榴弾やら様々な大型爆弾が地上に達した。
大量の爆弾が炸裂し鳴動する、その激しさは観測機隊が退く程である。
巨大鉄像に最も近かった天草隊は損害が酷く死体すら見当たらない者が多数出ていた。
だが当の天草本人は一時的に気を失った程度でそれ以上に無傷だったのは巨大鉄像である。
「見よ!あれだけの爆撃でも巨大鋼鉄神像には傷一つ着けられぬ、あの反救世主(猫舌)を地獄に叩き込むのだ!」
天草の熱狂は既に現実をも超越してしまっている。
「天草様、負傷者が多いので手当ての為に停止を……」
「うるさい!貴様らの祈りが足りんのだ、修行だと思って進めッ」
配下の進言を一蹴し海へ向けて一直線に歩みを続けた。


 「馬鹿な……、四十六糎砲や二〇〇番ですら効かないのか」
観測機隊の報告を聞いて参謀達が崩れるように座り込んだ。
『最早末期だ』と指摘した『その可能性』に縋るしかもう手はないのだ。
あまりの状況に神仏に祈り始めるものすら出始めている。
猫舌はただ瞑目し『その可能性』の報告を待った。

爆撃以降天草隊の人数が少しずつ減っていく、手当てに止まる者、負傷が悪化し歩けなくなった者、そして隙を見て逃げ出す者。
だが天草は逃亡すら一顧だにしない、完全に自分の世界に入っているのだ。
「蚊蜻蛉共め!」
効かない急降下爆撃を行う敵に苛立ちを覚えながら湾内に居るであろう敵艦隊に向けて突き進んだ。


 「一番技量のある者か……青木特務大尉!」
青木 星子海軍特務大尉は上司に呼び出されその場に居た連絡将校から特別任務細かい説明を受けた。
それが終わると他の部隊員も集め作戦の説明が始まった。

地上支援の為に展開していた彗星隊へ下ったのは噂の巨大鉄像への攻撃命令である。
青木機に巨大鉄像を破壊できる爆弾が搭載される。
「星子さん、これ各国が血眼になって開発している新型爆弾じゃないですよね」
不安そうに街渡川 羅針盤(まちわたりがわ こんぱす)海軍予備中佐が尋ねる。
「まさか、ああ言うのは何トンもあるでしょ」
羅針盤は親しみを込めて「さん」付けで呼んでいるが見てのとおり彼女のほうが階級は上である。
実は二人とも同い年で甲飛出身と高等商船学校出身の差で階級に差が出ているのだ。

ちなみに米国は既に500kg以下の核砲弾を開発済みなのだがそこまでは二人とも知らなかった。

二人は乗機を確認すると爆弾倉に識別用に紫色の帯が入った二十五番陸用爆弾が収まっていた。
中身は風呂戸中将が持って来た谷岡結晶Gが装填されており信管が作動すると結晶が目標に衝突するように出来ている。
投下後の弾道は普通の陸用爆弾と同じように落ちるように工夫されている。

青木機以外の彗星は囮で巨大鉄像に陸用爆弾を当ててこちらの意図に勘付かれない為である。
基地を発進した彗星隊はまっすぐに巨大鉄像の元へ向かった。

巨大鉄像上空にて縦列を成し彗星は急降下していく、対空火器が発達した今では滅多に見れない降下法だ。
一番機の投弾から割り出した照準のズレを後続機が修正していく。
「外れても回収して再利用できるから気負うことは無い」と出撃前に言われたがやはり緊張する。
前の機が投じた爆弾はきちんと命中している、巨大とは言え人型の相手を頭上から狙うのだなかなか面倒だ。
最後尾の青木機がダイブブレーキを作動させながら高度を詰める。
背後の街渡川中佐は高度を読み上げていく高度はついに3ケタだ。
時がゆっくりと過ぎていくように感じる、そして所定の高度で投下した。
即座に引き起こそうと踏ん張りカウルフラップを開いて機体は元の高度へと駆け上がろうとする。

 「天草様、電話が」
「なんだ、この忙しい時に!!」
頭上の蚊蜻蛉に腹を立てながら受話器を受け取った。
「あれだけ散々警告したのに契約を破りましたね?」
電話の主はあの胡散臭い行商人だ、彼が巨大鋼鉄神像の情報を売ったのだ。
「何を言う、外道川や猫舌に協力した者を人間とは言わない!」
開き直ったとしか思えない内容を本気で言っている天草に行商人は呆れたようで溜息混じりに言う、
「どうしようもありませんね」
少し間をおいてこう告げた。
「ズドーン!!」
その声と共に彼の頭上で眩い光が迸る。


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