九州橋頭堡2

「大分へ」

大隅半島に上陸した真・日本国軍は勢力を拡大しながら北上を続け鹿児島県を支配下に置いた。
当座の目標として九州制圧という至極真っ当な内容だ。
しかし九州制圧には問題が山積していた。その中でも特に重要なのが在日米軍の存在だ。
全ての兵力で真・日本国軍を圧倒する彼らといかに戦うかは各司令官にとって頭の痛い問題であった。

しかし全てが悪い状況ではない。
米軍は四国に出現した地底人との戦闘で大分疲弊している。
それに度重なる戦闘で米国内では厭戦気分が広がっていた。
米国が本腰を入れる前に全国を支配下に収めなければいけない。
少しでも早く進撃するには迂回すれば良いのだろうが
大分に展開している四国攻めの米軍を撃破しなければ背後から襲われる事になる。
そこで大分へ進む訳だが外道川・米軍には主力は熊本へ向かっている様に見せかけるべく隊を二つに分けた。
主力は猫舌造兵大将が率いり大分へ、別働隊は風呂戸 葉須磨(ふろと はすま)陸軍中将が指揮し熊本へ向かう事になった。
大分に展開している米軍は二、三線級で士気が低いとは言え装備は優秀だ。
主力はチャーフィーやシャーマンだろうがパーシングやウォーカー・ブルドックも保有している可能性が有る。
四国で地底人軍と戦っているIsaak Ozimov Frank(イサアーク オジモフ フランク)将軍も厄介だ。
彼は機甲戦のエキスパートで第一次大戦末期にはフォード3t戦車に乗り、米軍内でも評価は高い。
朝鮮でも北朝鮮軍及び中共の義勇軍相手に機甲戦を演じ敵に大損害を与えた。
あのモンティ並に傲慢な英軍将校マッキンタイアの数少ない米軍の友人である。
山がちな四国では得意の機甲戦に持ち込めず苦戦しているようだが
気が変わって宮崎平野で機甲戦に持ち込まれたら装甲車両の貧弱な猫舌側に勝ち目は無い。
よって米軍主力が地底人に係りっきりの今の内に叩こうと言うのが本作戦の骨子だ。


「宮崎を越えて」

主力(猫舌部隊)は日豊本線にて北上を続けていた。
普通に考えれば圧倒的な航空戦力をフルに活用して線路を爆撃して足止めをするのだが、
折角再建したインフラを破壊したくないのか、此方の装備の貧弱さを知ってなのか一向に攻撃を仕掛けてこない。
完全に舐められているか罠を仕掛けて手薬煉をひいて待っているかのどちらかだ、だが今回はそれが功を奏した。
猫舌旗下の第四二陸戦戦隊(兵力約3万)と若干の二・三線級部隊を伴っているが今攻撃を受けたら確実に大損害を出してしまう。
何故そんな無防備な状態にしてまで急ぐかと言えば先に述べたとおりだ。

「宮崎県って通行してみるといかに広いか判るな」
無蓋貨車に設けられた特設対空機銃座で兵士達が会話を楽しんでいた。
完全に弛んでいたが敵が来ない以上弛んでしまうのも仕方がない。
宮崎を越え日向、延岡を占領したが特に抵抗らしい抵抗を受けなかった。
大分県に入ってもやはり攻撃を受けない…どうやら罠でも仕掛けてあるのだろう。
第四二陸戦戦隊の主力を直川で降ろし、小鳥遊 明信(たかなし あきのぶ)少将は
先遣隊を列車に乗せたまま佐伯駅に突入させる事した。


「佐伯港炎上」

雨の中ブレーキ音が響き列車はホームに滑り込んだ。
「走れ!」
列車が停止すると足早に将兵が降りていく。
駅は蛻の殻だ。
「爆発物が無いか調べて!」
村田 経(むらた けい)海軍中佐が周囲を確認しながら指示を出す。
「爆発物はおろか人っ子一人いません」
部下が村田中佐に報告する。
「…まさか…ここら辺で一番高い場所はどこ?」
「近くに山があるのでそこが一番高いかと」
「兵を全員山に退避させて!」
村田中佐が言った途端静まり返った街に爆発音が響いた。
「!!」
火柱が街を赤く染めた。
「中佐、港から爆発音が」
「分かっているわ」
さらに爆発音が続く。
「一個小隊を残して直ぐに移動できる状態で待機、その一個小隊は私と共に港へ偵察よ」
村田中佐達は恐る恐る港へ近づいた。

村田中佐達は佐伯港の惨状を見て驚いた。
港内には大量の木片や鉄片が浮いてた。
炎上する米艦船、遊弋する謎の小型艇。
「あれは、噂の地底人の魚雷艇ではありませんか?」
兵が高速で遊弋する魚雷艇を指差した。
「我が軍にあの形状の魚雷艇は無いからそうみたいね」
村田中佐は呆気にとられながらまじまじと見た。
「米軍は佐伯の街諸共私達を吹飛ばそうとしたみたいだけど、
攻撃準備中に地底人の奇襲を受けたみたいね。
司令部に連絡『佐伯を制圧せり、米軍の攻撃を受けるも
地底人の奇襲により米軍は壊滅せり』って」


「死中」

猫舌旗下の主力は国道10号線を驀進していた。
「普通に考えれば野津町に陣を張っているよな」
猫舌はぼやいていた。
海沿いは米艦隊がいる以上危険で通れない、10号線で待ち受けていれば
勝手に猫舌側は突っ込んでくるので部隊を展開させていれば大損害を与える事が
出来るのに敢えてしないと言う事はゲリラ化すると困るから包囲殲滅しやすい
大分平野に誘い込もうと言う事らしい。
大分を迂回して熊本経由で博多に攻め込むと言う方法もあるが、それでは軍を分けた意味が無い。
「死中に生を求めるか…」
猫舌の苦悩は続く。


「大分戦車戦」

「司令長官、別働隊の攻撃により熊本が陥落しました!」
攻撃準備に勤しんでいる司令部に朗報が入った。
「そうか!流石風呂戸中将だ!」
猫舌も顔を綻ばせた。
「司令長官、あと一つ実は悪い知らせが…」
「なんだ?」
「熊本から退却する外道川・米軍と大分の米軍がこちらに向かってきます!」
熊本が陥落した事により佐世保との補給路を塞がれてしまった米軍は竹田に待機していた部隊を収容すべく総攻撃に出た。
犬飼に陣を展開する猫舌部隊は大分の米軍と竹田の米軍に挟まれた。
「迎撃戦だ、直ぐに主力各部隊に連絡しろ!」

「タイプ3スペシャル!」
陰に隠れていた三式中戦車Ⅲ型の88mm砲弾が僚車を仕留める。
リアルIJAは予備まで投入たらしく必死の迎撃戦闘を行った。
「クソッ、やられた。脱出する!」
ルート57(国道57号線)には味方のチャーフィーやシャーマンの残骸が大量に鎮座していた。
味方の歩兵が敵の機銃に蜂の巣にされる。
俺達のパーシングは味方の残骸を体当たりでどかしながら前へ進んだ。パーシングで残っているのはもう俺達しか居ない。
「くらえッ!タイプ3をやったぜ!」
砲手が叫びながら歓喜する。
「11時、タイプ5GMC!」
五式砲戦車Ⅱ型…タイプ3を固定戦闘室で自走砲化したものだ。
主砲は4.7”加農砲か5.9”榴弾砲…リアルIJAが製造できる最強の対戦車自走砲だ。
そいつに照準を砲手が合わせようとした時、タイプ5の砲口が光った。


「血戦の果てに」

結果から言えば猫舌側の勝利であった。
竹田から来た米・外道川軍は壊滅し降伏するか分裂しながら大分へ着いた。
大分から来た米軍も全滅し竹田の部隊の残党を収容して大分港から退却した。
だが猫舌部隊側も最前線で戦った部隊は全滅に近い損害を受け、しばらく行動不能になる隊が続出した。
米軍の部隊が猫舌の司令部の前を通って大分へ向かったりする等、混乱が続き猫舌旗下の主力は到底追撃できるような状態ではなかった。

この戦いの結果、九州東部の米軍は駆逐され
九州瀬戸内海側の米軍は福岡県に展開している部隊をのぞき居なくなった。
九州で外道川に残ったのは福岡・佐賀・長崎の3県だけだった。


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