九州橋頭堡1


「出港」

逆上陸作戦準備命令が出てから一ヶ月、真・日本国軍は集積した装備を船に積め今や遅しと出港命令を待っていた。
「大将、時間だ」
板橋 前兵衛主計少佐…特務大尉から昇格し特選少佐になってからはや数年、ここまで来るのに随分と遠回りしたと感じていた。
「よし、行くか」
猫舌 虎之助造兵大将は重い腰を上げゆっくりと伝声管に向かった。
「これより『馬の丸焼き作戦』を発動する」
猫舌の一言を合図に艦隊司令官の明石屋 斬馬(あかしや ざんま)中将が細かく指示を出す。
罐を暖めながら停泊していた艦隊が一斉に動き出した。
猫舌は戦艦『武蔵』の艦橋から艦隊を見渡し感慨にふけていた。


「鉢合せ」

鹿児島に上陸すべく針路を北東にとり順調に航海を続ける真・日本国艦隊。
台湾海峡を通過し東シナ海を中共よりに越え、大隅諸島の近くの草垣群島付近で
外道川水上警察隊…要するに外道川の私設水上警察の船団と鉢合わせになった。
戦闘は一瞬で終わった。
彼らは米軍供与のPTボートと強武装の改造哨戒艇の合計二桁にも満たない船団だった。
勇敢にも突っ込んできた艇は砲撃を受け木っ端微塵に、逃げた艇は哨戒機の射爆撃を受け撃沈された。
洋上に散乱した艇の残骸の一部と捕虜を回収した。
回収したものの中に青地に白いコンパスの模様、そしてその上に「パン」の青い文字、外道川水上警察隊の旗だ。
外道川は「パン」が好きなのだろうか国旗にも日の丸の中に白抜きで「パン」の文字が描かれている。
武器の残骸の他にコカインが大量に入っていた。
違法薬物に詳しい者に訊いた所、このコカインは北朝鮮製らしい。
後で捕虜が口を割り裏づけも取れた、外道川政権の腐敗っぷりはかなり酷いものの様だ。
この戦闘で敵にこちらの所在がばれてしまった、上陸は困難を極めるだろう。


「上陸」

神戸 榛名海軍中佐は志布志湾に居た。
真・日本国軍は鹿児島に直接上陸すると見せかけて、先に大隅半島を制圧する事から始めた。
彼女は木大発に乗り一番槍を務めるのだ。
制空権は完全にこちらが掌握している、付近の保安隊が決起して外道川の私設部隊と交戦していると言う事だ。
散発的な反撃は遭ったがその度に武装大発や機動砲艇の攻撃で敵は沈黙した。
彼女の歩兵大隊も大した損害も無く上陸した。
自動貨車に分乗して決起した保安隊と合流すべく鹿屋へ向かった。


「串良戦車戦」

東串良を越えて串良川をに差し掛かった時、偵察に出ていた小型乗用車が吹き飛んだ。
「降車、散開!」
各小隊長が兵を散らばらせた。
(橋を渡らせないつもりか…しかし下手に動けないな、高台に砲が有る様だ。
敵は時間さえ稼げれば良い、だが我らは各個撃破される前に鹿屋の保安隊と合流しなければならない)
神戸歩兵大隊は犠牲覚悟で独力渡河する準備をしていた。
だが増援が予想より早く着た。
「神戸中佐、苦戦しているようだね」
カビナンター改造指揮戦車に乗った岩丘 虎臣海軍造兵中佐がハッチから身を乗り出して榛名に話しかけた。
「造兵中佐、砲台の位置は分かるか?」
「無理だね、軽観測機が近づいたら射撃を受けたから分からないよ」
「戦車に跨乗して橋を突っ切るか」
「大隊砲と近接支援型戦車はここにおいて援護させるとして、全員は乗り切らないよ」
「高台を制圧できれば良い、造兵中佐は残って援護を」
「解ったよ」

カビナンター戦車のメドウズ発動機が回転数を上げ、橋に向かって疾駆する。
何両か通過した後、砲声と爆発音が響き砲弾が頭上を飛び交う。
「通過出来たのは4輌か…渡河第二波を用意した方が良いな」
岩丘造兵中佐は呟きながら渡河の算段を練り始めた。

高台へ向けて全速力で突き進みたいのは山々だが、狭い十字路に伏兵を置かないで放置するとは思えない。
跨乗歩兵達はカビナンターから降りて恐る恐る近づいた。
手信号で敵が居ない上に罠を仕掛けてない事が伝えられると神戸中佐は一瞬迷った。
そして再び歩兵を跨乗させ高台へ向かった。

危険を承知で一列横陣で高台を索敵する神戸中佐達。
爆発音が近くでした、爆発音を反対側へ視線をずらすとスチュアート軽戦車が隠れて鎮座していた。
「1時、敵戦車!」
「3号車、テーッ!」
カビナンターの換装した四十七粍砲がスチュアートを捉える。
だが砲弾は弾き返された。
「角度が悪いかッ、4号車回りこめ!3号車そのまま射撃を続けろ!」
歩兵達は既に降車して散開して警戒にあたっている。
回り込もうとした4号車が爆発した。
(今のは爆発は75粍の榴弾?!シャーマンかチャーフィーでも居るのか?)
「中佐、10時から敵砲撃!」
「3号車は後退してこちらを援護しろ!
2号車回避行動をとりながら10時の敵に対して煙幕弾を!
1号車は私を乗せたまま10時の敵に突撃!」
敵弾の風切音と爆発音がする中、砲塔にしがみ付いたまま指揮を執る神戸中佐。
敵火点に近づくにつれ敵弾の風切音が聞こえなくなってくる。
「長砲身スコット!」
茂みを突破し敵の正体が判明する、M8スコット自走砲の75mm長砲身モデルだ。
「主砲故障!」
砲手の焦った叫び声がする。
「体当たりしろ!大丈夫だこちらの方が重い。中佐、今の内に下りてください!」
車長が神戸中佐に降車を促す。
「分かった」
神戸中佐はそう言って飛び降りた、速度の付いていた為転げ回りしばらくして気が付いた。
(音がしない…大丈夫か?)
敵自走砲を首を左右に振り探す。
横倒しになったスコットと前部が変形したカビナンターが視線の先に居た。

戦闘は更に続き、損害を出しながらも串良を突破した神戸歩兵大隊と岩丘戦車中隊は鹿屋一番乗りを果たした。


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