大阪戦役9

「なすび」


山県連隊をはじめとする大阪城南東の各部隊は第427師団の総攻撃を受けた。
損害をものともしない突撃で真・日本国軍側を心胆を寒からしめていた。

「いったい敵はいつになったら攻撃を止めるの?!」
山県中佐は素槍を手に駆けずり回っていた。
山県連隊は反復した第427師団の攻撃で疲弊していた。
それを好機とみてかさらに攻撃が集中する。
防衛線を突破した敵兵を素槍で斬り付ける山県中佐。


巨大な風車のたてる音に似た音が耳に入った。
嫌な予感がして素早く伏せる。
何かが頭上を飛び去った。
それは山県中佐の後方の火点を吹き飛ばした。

散らばった土嚢の中心を見ると地面に突き刺さるパンがある。
兵がそれを引き抜いて山県中佐に見せる。
彼女はそれを見て息を呑んだ。
それはカチカチに固まったパンだ。
それも研がれている。


再びあの音がする。
「待避ー!」
分隊長が叫び兵達は逃げ惑う。
据え付けてあった米製37mm速射砲を破壊してパンは止まった。

「突撃ィーーーッ!」
「ウォォーーーッ!」
米兵が喊声を上げてこちらへ向かって来る。
こちらは速射砲も中機関銃も破壊されてしまい残るは小火器ばかりだ。
「撃て!」
米軍から奪ったM1A1小銃(改造ガーランド)を発砲する兵達。
だが米兵に中々当たらない。
指呼の間に近づく米兵。
何名か斃れるがそれをものともせずに突き進む。

兵達の前に出て素槍を振り回し無双する山県中佐。
「邪魔だ、ドケーッ!」
米兵の指揮官らしき男がパンを手に彼女に襲い掛かる。
彼女の突きをパンで躱して一気に懐に入る。
慌てて素槍で防御するが素槍を折られてしまう。


「クソ野郎猫舌は死んだ、次はお前の番だーッ!」
その男がパンを振りかぶる。
「そこまでだ、猫舌大将は生きているぞ!」
別の男の声がした。
(この声は!)
山県中佐は声のする方を見た。

緑色の陸軍防暑衣にラフに着た、丸坊主の大男がこちらへ向かってくる。
「馬菜名中将!!」
山県中佐は嬉しそうな顔をした。
「山県中佐、ご苦労。今回の独断行動はあとで聞くぞ」
馬菜名中将は視線を米兵の指揮官らしき男に向ける。
「ルーテナント・ジェネラル・バナナだと?こんなところで大物と出会うとはなぁ!!」
「その言葉遣いにパン・ブーメラン…ジューン・ヤオーイ中将か」
「ああ、そうだお前らをまとめて地獄に送ってやる!!」


馬菜名中将は軍刀を抜き、ヤオーイ中将と対峙する。
一呼吸おいて一気に駆け出した。
パンと軍刀がぶつかり合う。
激しい戦いが続く。
両者ともに疲労がたまる。
ヤオーイ中将が馬菜名中将を突き飛ばす。
「死ねぇ!!」
止めのパンを投擲しようとする。

「ヤァッ!」
着剣したM1A1小銃で山県中佐がヤオーイ中将を突こうとする。
「邪魔だ、小娘ッ!」
ヤオーイ中将が山県中佐を弾き飛ばす。
「きゃッ!」
壁に叩きつけられる山県中佐。
「時間稼ぎになったぞ、中佐!」
今日採れたての新鮮な鳥飼茄子を食べ終わった馬菜名中将は軍刀を捨てた。
「どうした?降参する気か?」
ヤオーイ中将がパンを構える。
「俺はなすびを食べると力が漲って来るんだ、それにこっちの方が得意だ」
馬菜名中将は軍刀の鞘を構えた。

「ウォォォーーッ!」
「オリャァァッ!」
二人は再びぶつかり合う。
先程より馬菜名中将の動きが速い。
「!!」
馬菜名中将の軍刀の鞘がヤオーイ中将の額を捉えた。
断末魔の声を上げて斃れるヤオーイ中将。

大阪戦役で初めて師団長が戦死した瞬間だった。


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