大阪戦役10

「行殺(はぁと)天誅組」


指揮官が戦死した事により統制を失った第427師団は勢いをそがれ、各地で各個撃破されていった。
これにより米軍の反撃は頓挫するのだが、真・日本国側も損害多数で追い討ちをかけられなかった。

大阪の戦線が膠着する一方で和歌山では動きがあった。


それまでは湯浅町で一進一退を繰り広げていた米軍と地底エンバウーラ軍であったが
四国北部に山陽道の真・日本国軍に対する牽制用に配置していた予備兵力を
転用する事によって兵の補充を受けた和歌山のエンバウーラ軍は勢いを得て
遂に湯浅町を占領するに至った。

「二等上級大将、このまま勢いに乗って由良港を目指して進撃します!」
「うむ、なんとしても解体中の『信濃』を確保するのだ!」
前線へ視察に来ていたヘンナタバッコー二等上級大将は
由良港への一番槍を勤めるモルドプピン少将を激励した。
「ハッ!」
敬礼して前線へ向かうモルドブピン少将。
それを頼もしげに見送る二等上級大将。
米軍から奪ったトラックの列が由良港へ向けて繋がっていく。


「島中さん、工事の具合は?」
和服姿の男が作業着を着た女性に話しかけた。
「ああ社長、今日中には終わりますよ」
その女性は話し終えた直後に咳き込んだ。
作業着の女性の背中をさする和服の男。
「ああ、すまないね」
和服の男は坂友龍馬と言う、真・日本国の工作員だ。
作業着の女性は島中 胤(しまなか つづき)と言う技術者である。
実は彼女は中島 三奈子と言う真・日本国の現役海軍造船大佐だ。
真・日本国にて多くの艦艇の設計・建造に携わった重要人物でもある。

坂友は内地での工作に従事する為に「伊良林産業」と言う会社を興した。
この会社は規模の小さな総合商社みたいなもので様々な事に手を出している。
社長と呼ばれていたように坂友はこの会社の社長だ。
島中はこの会社の造船部の部長と言う事になっている。

「工事」とは『信濃』の修理のことである。
目前までエンバウーラ軍が攻めて来ているのに何を暢気なとも思うが
『信濃』は今後戦局を左右する重要な鍵になるかもしれない事を考えると
みすみすエンバウーラ軍に渡すわけにはいかない。
米軍も『信濃』の事が気になるらしく何度も訪ねて来るが
「突貫工事で解体中」とか適当な事を言って追い返している。
坂友にはもう一つ懸案があった。


由良町内山岳地帯

「森様、あともう一息でございます」
「うむ、苦しゅうない」
由良港へ向けて山岳地帯を徒歩で行軍する集団が居た。
通称「天誅組」…元華族:森 俊(もり まさり)本名:中山 光子を主将とした武装集団だ。
傍らには実質的な指揮官である吉村 郷美(よしむら さとみ)が付き添っていた。
彼女らは表向きは反地底人同盟の一つであったが、実際にはかなり過激な反外道川派であった。
「元」が付くとはいえ相手はかなり位の高い公家の出、外道川政権でも思うように手出しは出来なかった。

彼女らは「昭和甲午の変」寸前に奈良県五條市の外道川派を襲った。
外道川派だった市長を殺害し市役所を焼き挙兵した。
「五條御政府」を宣言し真・日本国に呼応する予定だった。
だが、「昭和甲午の変」で猫舌が「朝敵」となると事態は一転。
大義名分を失い「暴徒」扱いとなり天の辻へ逃走。
途中米軍の輜重部隊を襲撃して装備を集めた。

吉村は十津川村に入りその地で募兵。
装備は貧弱な上に十津川村で加入した人々は脅迫じみた方法で集められた者もいた。
そんな烏合の衆は途中内ゲバを起こしたり、高取町の米軍の補給拠点を襲撃したものの
逆に少数の米軍に蹴散らされる始末。
外道川政権は天誅組の追討を指示し、各地で戦闘を繰り返すが実戦経験のない森の指揮で連戦連敗。
脱走者が次から次へと出る。
外道川政権から使者が来て十津川村民を説得、十津川勢が離反。
この事態に森は天誅組の解散を宣言。
残党は真・日本国の工作員が居る由良港へ向かう事にしたのだった。

戦力は減ったが却って身軽になった彼女らは遂に由良港を見渡せる場所に到着。
由良港の坂友に伝令を送った。
あとは返事を待つだけだが…。


由良町内

「進め!なんとしても『信濃』を入手するのだ!!」
モルドプピン少将が檄を飛ばす。
エンバウーラ軍は突撃を繰り返すが激しく抵抗する米軍の攻撃にてその度に粉砕された。
米艦隊の艦砲射撃がエンバウーラ軍を吹き飛ばす。
砲兵が反撃するが効果はいまいちの様だ。
「少将、海軍の魚雷艇部隊が攻撃を開始するそうです」
「おお、遂に来たか」
艦砲射撃が止んだ。
「一気に決着をつける、我に続けッ!」
少将は叫びながら『信濃』解体現場へ向かった。


「地底人が攻めてきたぞ!」
米兵が慌てて退却していく。
「島中さん武器の積み込みはどうですか?」
坂友は島中に状態を聞く。
「終わっています、後は天誅組さえ到着してくれれば…」
「やむおえない、出港準備を完了してくれ」
坂友は苦虫を潰すような顔をした。


建物の擬装が外れ中から『信濃』が現れた。
ドックに海水が流れ込んでくる。
『信濃』は煙突から煙を吐き出している、罐は暖まっていた。

「馬鹿な、解体工事中ではなかったのか?!」
少将は驚きながらも喜んだ。
(稼動状態の『信濃』なら二等上級大将も大喜びに違いない)
「急げ!今や『信濃』は出港しようとしているぞ!!」
将兵を鼓舞しながら少将は進む。


坂友はタラップの上部から駆け上がってくる地底人に対してナイフを投げつける。
ナイフが命中してもんどりうって転げ落ちる地底人。
ゆっくりと動き出す『信濃』
それでもめげずに次々と現れる地底人達。
「天誅組見参!!」
森達が叫びながら地底人を蹴散らしタラップを突進してくる。
突き落とされ海に落ちる地底人。
天誅組が艦内に収容された頃にタラップが外れ、地底人諸共海に落ちる。
『信濃』は遂に出港したのだった。


沖合いでは米艦隊とエンバウーラ艦隊が戦闘を行っている。
その間を縫うように航行する『信濃』。
(おかしい…米艦隊は手一杯で攻撃できないのは解るがエンバウーラ艦隊はまだ余裕がある)
エンバウーラ艦隊の反応を訝しがる坂友。
「社長!地底人が艦内に!!」
(やはり、そうか…)
「艦の運用は島中さんに任せる、手の空いてる者は艦内の地底人を探せ!」
坂友はサボテンの剣を手に艦内を調べまわる事にした。

「居たぞ!!グァーッ!」
乗組員の断末魔が聞こえる。
艦内に潜入していたモルドプピン少将達は奮戦していた。
チャプソン式溶解液の入った水鉄砲で真・日本国側の兵員を骨に変えていった。
「そこまでだ、悪党!」
坂友がナイフを投げつける。
少将は水鉄砲で迎撃。
溶けるナイフ。
「貴様の方が『そこまで』のようだな」
少将は水鉄砲を坂友に突きつける。
少将は引き金を引いた。
だが、出ない。



溶解液が切れたのだ。
「こんな物無くても、倒してくれるわ!」
少将は水鉄砲を投げ捨てた。
素手で坂友と相対する。
坂友はサボテンの剣を揺らしながら隙を見て少将に打ち込んだ。
「グァッ!」
突き刺さるサボテンの棘。
その出来た隙にさらに打ち込む坂友。
その度に悲鳴をあげる少将。
坂友が圧倒的に有利だが決め手が無い。
その事を見抜いた少将が突進してくる。
「死ねぇーー!」
「くたばれッ!」
投擲用ナイフを深く突き刺す坂友。
ナイフは急所を貫いた。
そして倒れ掛かる地底人を柔道の要領で投げ飛ばした。

これを見て士気の低下した地底人達はおとなしく投降した。


その後『信濃』は無事に真・日本国艦隊に合流した。




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