大阪戦役8

「山県さんは人望がない」


猫舌が狙撃されて負傷(場合によっては死亡)したと言う
流言蜚語が大阪城南に展開している真・日本国軍に回った。

これに激怒した真・日本国軍の一部部隊が攻撃を開始。
混乱の幕開けとなった。
この攻撃に対して米・外道川軍は反撃を実行。
更に反撃してきた米・外道川軍に対して他の真・日本国軍が攻撃をするという事態である。


村田歩兵大隊は真田山町の堡塁から激しい攻撃を受けていた。
大隊本部も位置がばれているらしく砲撃を受け移転した。
瓦礫の合間に作られた大隊本部で村田中佐は本部スタッフと今後について話していた。
「大隊長、大将は?」
「火消しの為に総司令部に戻ったわ」
そんな中、伝令が入って来た。
「大隊長、奇兵隊が動き出しました」
「山県め、功を焦ったか」
眉間に皺を寄せて村田中佐は北東の方を見た。


深江橋近辺

「諸君、我らの力を見せる時が来た。
今や真・日本国軍は猫舌大将を失い危機に瀕している。
我々の手で外道川政権を倒し、新しい日本を創ろうではないか!」
山県 朋子陸軍中佐が将兵の前で檄を飛ばしていた。
一斉に声をあげる将兵。
各隊が動き出した。

第一山口県連(山口県人連隊)通称「奇兵隊」は山口に駐屯していた保安隊を中心とした部隊だ。
中国地方の戦いにおいて在山口県保安隊司令 高杉 春子一等保安正が真・日本国軍の
上陸に呼応して蜂起(功山寺挙兵)、最初100名に満たなかったが次第に勢力を広げ
遂に米・外道川軍を県外に退却させるに至る。
この戦いの後、高杉一等保安正が持病の悪化と後進の育成の為、郷里に残り部隊を後輩である
山県陸軍中佐や山田市乃海軍中佐に任せた。

鳥羽・伏見の戦いにおいてライバルの「小奈翁」こと山田中佐が大活躍した事に焦りを感じていた。
当時、奇兵隊は過激な手段も辞さずと吼えていた為、危険と判断され鳥羽・伏見に参加出来ずに居た。
山田中佐にしろ山県中佐にしろ高杉一等保安正を敬愛していた。
が、人前で素直になれなかった山県中佐は割を食って他人から嫌われる始末。
一等保安正の後継者は自分だと自負する山県中佐。
活躍の場を欲する隊員たち。
山県中佐の個人的なモヤモヤと隊員の焦りが合致して今回の行動になった訳である。


山県中佐の目論見はこうだ。
深江橋から谷町四丁目方向へ西進して大阪城と真田山町との連絡を絶とうと言うのだ。
作戦は簡単だが問題は多い。
下手をすると大阪城の部隊と真田山町の部隊に挟まれる危険性がある。
石橋を叩いて渡る彼女にしてはリスクのある戦い方だ。

奇兵隊に引き摺られる形で大阪城南東の各部隊が動き出した。
その中に岩丘 虎臣中佐の戦車連隊も居た。
もっとも学生(海軍兵学校・海軍技術学校の違いはあれど)時代、朋子の腹心だった虎臣は
父(猫舌)が戦死したと言う事をあまり真に受けてはいなかったが。


「大隊長、攻撃準備が整いました」
「解ったわ」
乃木 文乃陸軍少佐は双眼鏡を手に森之宮の方を見た。
(思えば遠くへ来たものね…)
彼女は熊本の戦いで軍旗を無くすと言う大失態を犯し(猫舌大将は電文で『生きて勝つ事が先決だ』
と書いたが)、責任感の強い彼女は自決しようとしたが上司の朋子や同僚の児玉 源(こだま はじめ)に
諌められた事と軍旗が奪回したので事なき事を得たが、その事が彼女の心に重く圧し掛かっていた。
それ以来自分の身を省みず鬼神も退くような戦いを行い、小倉城に一番乗りするなどの活躍もした。

乃木歩兵大隊は中央大通りを通って大阪城南へ向かう事になっていたが、
ここが一番強固な敵が居ると思われるルートであった。
山県歩兵連隊の支援の為、岩丘戦車連隊が配置されていたがこれは予備として後方に控えていた。
戦車が潤沢にある米軍程ではないが真・日本国も頭数だけなら結構な数を保有している。
(ただし、車種が不統一で一番多いのが米国製、次が真・日本国製、その後に英連邦と続く)
乃木大隊にはM8B1スコットとスーパー・モスビーGMCが配備されている。
B1スコットはM3スチュアートが改造の母体でそれ以外は普通のスコットと大差ない。
スーパー・モスビーGMCは76mm砲をマーダーVM式に搭載したものだ。
両者には手榴弾を投げ込まれないように屋根が取り付けられていた。


恐る恐る橋を渡る歩兵達、川を越えた先は敵の勢力圏だ。
一軒ずつ建物を制圧しながら進む。
邪魔な火点をスコットの砲撃で潰し、スーパー・モスビーがそれをバックアップする。
地道な戦いだがペースは遅いものの確実に進んでいた。
ところが、連隊本部から伝令が来てもっと早く進撃するように言われた。
将兵達も焦っていた。
このままでは大阪城南に達する前に真田山町の米軍が戻ってきてしまう可能性がある。

そこで損害覚悟での突進を開始する事が決まった。
防御力に疑問符が付くスコットを正面に押し立てて進む。
敵のバズーカ砲によって擱座するスコット自走砲。
敵機銃によって斃れる歩兵。
数百メートル進むのに損害を出しながらも乃木大隊は緑橋に差し掛かった。

「敵の逆襲です!」
伝令が血相を変えて大隊本部に入ってきた。
喊声をあげ攻撃してくる米軍。
今まで相手にしていた部隊と戦法と装備が違う。
実のところ、今までのは持久戦を行っていたパラノウィッチ中将の第893歩兵師団で
今突撃を仕掛けてくるのはジューン・ヤオーイ中将の第427歩兵師団だ。
鴫野・今福の戦いで損害を受けた第427師団は再編成を終えて真・日本国軍に再び牙を向いた。

大隊本部にも銃声や砲声がだんだん近づいてくるのが分かる。
発動気音が急速に接近してくる。



大隊本部の壁を突き破ってM39汎用装甲車が突入してきた。
「死ねぇー!!」
中から米兵がグリースガンを乱射しながら飛び降りてきた。
大隊本部の兵が銃を構えるより早く、高速に動く影に殺害された。
「!!」
乃木少佐は腰に下げていた軍刀を咄嗟に抜き放ちその影を切り落とした。

影が断末魔の悲鳴をあげる間もなく倒れた。
「タチスバン軍曹が一撃で殺られた!そんな化け物相手に戦えるか!」
グリースガンを投げ捨て米兵は逃げ出した。

よく見るとその影は米兵だった。
手にはカッターナイフが握られていた。
軍服には「タチスバン」の名前が書いてある階級章は軍曹だ。
(米兵にもこんな恐るべき者が居たとは…)
乃木少佐はそう思いつつ指揮に戻った。


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