大阪戦役7

「猫舌狙撃事件」


長堀通に防衛線を敷く米・外道川軍。
それを包囲するように展開する真・日本国軍。
お互いに塹壕を掘り、地雷を埋め鉄条網を張る。
さらにその奥には大隊砲や連隊砲が控えている。

猫舌は茶臼山町の臨時総司令部を後にして抜き打ちで各隊を視察する事にした。
有坂 成海中佐の独立重砲大隊の視察を終え、村田 経中佐の歩兵大隊の司令部へ向かった。

「邪魔するぞ」
猫舌は大隊本部のある建物に入った。
「猫舌大将!」
大隊本部のスタッフが一斉に敬礼する。
猫舌は右手を出しそれを制止する。
「気にしなくても良い、それより真田山町の堡塁からここは丸見えだな」
「背後の線路を守るにはどうしてもここに展開する必要がありまして」
村田中佐が冷静にだが困ったように答える。

鶴橋駅と真田山町に挟まれた一帯に村田大隊は展開している。
ここから堡塁まで中機の弾なら十分届く距離だ。
堡塁は小高い丘のようになっていて、その周囲には塹壕や鉄条網
おそらく地雷も張り巡らせていると思われる。
「やろうと思えばいつでも駅を攻撃できるがしないのは挑発のつもりか?」
「恐らくそうだと思います」
大隊スタッフの一人が猫舌の疑問に答える。
真田山町の背後には情報によるとパラノウィッチ中将の第893歩兵師団が展開していると言う。
その気になればここを突破して駅に雪崩れ込む事も出来るし、駅を砲撃にて破壊する事も出来る。
ある種の不気味さを感じながら本部を後にしようとした。

「大将」
オート三輪に乗ろうとした猫舌を村田中佐が呼び止めた。
「ん、何だ?」
猫舌は村田中佐の方へ向かう。
村田中佐は何か光るものを発見した。
本能がそれが危険な物だと告げる。
反射的に猫舌を突き飛ばした。

次の瞬間オート三輪が爆発した。
「敵襲!」
けたましい警報が鳴り兵卒が走り回る。
「大将!無事ですか!」
村田中佐は倒れている猫舌に物陰から声を掛ける。
「ああ、大丈夫だ」
「そこで死んだ振りをしていて下さい!」
「なんだと?兵が危険な目に遭っているのに自分だけのうのうとしていられるか!」
起き上がろうとする猫舌。
「狙撃手です、狙いは大将です」
「そんな事は解っている!」
「大将がそこにいる限り敵は止めを刺せません、移動してきたところを私が討ち取ります!」
「解った、任せる」
猫舌が納得したのを確認して村田中佐は自分の設計した自動小銃を取りに本部へ戻った。


(偵察に来たらとんだ大物が居たもんだ)
田龍車 クプクマンジュー少尉は町の中をM1C自動狙撃銃を持って走り回っていた。
彼は一人で村田大隊後方に浸透し調べ回っていたのだがそんな中
真・日本国軍総司令官であるアドミラル・ネコジタを発見した。
一人で来ているところ見ると抜き打ちで部隊を視察しているようだった。
偵察がメインなので余分な装備と人員と言う事で通信兵や観測手を置いて来たがそれが仇となった。
報告に戻ったところで報告する事には違う部隊の視察に行ってしまうのは目に見えている。
ならば、ここで敵司令官の首級をあげて敵の士気を下げるほか無い。

と言う事でネコジタを狙撃したのだが、敵の大隊長に勘付かれて失敗。
幸い、ネコジタは負傷して動けないようなので止めを刺すのは容易だ。
負傷した事に満足して帰還するということも可能だったが、
ネコジタには負傷しても直ぐに戦線に復帰すると言う伝説があり
その伝説を今日で終わらせる為にもあえて止めを刺す選択をした。


「大尉!この中で先任はあなたよ。あとは任せたわよ」
「中佐、指揮をしてください!」
「あなたは狙撃兵と差しで戦える?」
「い、いえ…」
先任の大尉を納得させ、村田中佐は自身が開発した一三式自動小銃を抱え本部を離れた。


一三式自動小銃、通称:自動村田銃。
『7.92*57mmや.30-06をフルオートで撃っても当たる小銃』と言う要求に対して彼女は
銃を重く頑丈にする事でこの要求を解決した。
あまりの重さに兵から文句が出る事も度々あったが、彼女は『もっと重いブローニング
自動小銃(BARの事)か軽いけどフルオートが当たらない改良型ガーランド自動小銃(
この世界で言うM1Aライフル、史実で例えるとフルオートを付けたガーランド)の方が良い?』
と答える始末。

ただ、頑丈なので簡単には故障しない事と良く当たるので分隊支援火器として一部の隊で使われている。
銃身の交換が簡単なので開発者本人も初めから分隊支援火器として割り切って開発したようだ。
作動方式はレバー式ディレイドブローバック(史実のFA-MASやAA-52と同じ)で
L2A1やC2A1の様に二脚兼前床が特徴。弾倉配置は自動小銃としては標準的な前床と引き金の間。
この銃の拡大改良型として二二式自動小銃が存在する。


村田中佐はBAR用の弾倉を一三式に取り付けた。
一三式に照準眼鏡を取り付けるとM1918(BAR) A2並に重くなる。
狭い街中で撃ち合うならM2カービンやSMGでも充分なのだが、
開発者が自分で使わなければ兵も納得しないだろうし
重い事を除けば気に入っているのであえて一三式を持って行った。

戦闘で廃墟と化した街。
時折、敵の堡塁とこちらの陣地が火力にて応酬する。
(大将を狙撃するにはあの場所が良いだろうから待ち伏せるにはあそこが良いわね)
村田中佐は予測される地点を狙撃できるポイントに移動した。

村田中佐は移動し目標が現れるのを待った、中佐の周囲に観測手は居ない。
大隊本部に観測手が出来るだけの技量を持つ人間が居なかった為である。
小銃を置き眼で周囲を窺う。
(来た!)
予測地点に米兵が現れた。
距離にして200m、照準眼鏡を使うまでも無い。
それどころか彼女の技量なら機関短銃でも当てられる距離だ。
アイアンサイトにて狙う中佐。
引き金に指を重ね絞ろうとした。


(いた、あそこにアドミラル・ネコジタが居る!)
クプクマンジュー少尉は倒れている猫舌を発見しM1Cを構える。
(何か気配がする…!、そこかッ!)
村田中佐に気がついたクプクマンジュー少尉が咄嗟に村田中佐に向かって発砲する。

「!!」
村田中佐の耳の傍を弾丸が飛ぶ。
村田中佐も反撃するが、引き金を絞るタイミングをずらされて至近弾に終わる。

クプクマンジュー少尉が走りながら銃を撃つ。
当然当たるわけが無いが、精神的に威圧する事は可能だ。
行き先はアドミラル・ネコジタだ。
(刺し違えてもヤツを倒す!)
ここまで来た以上今更退けない。
小銃を乱射して近づく敵兵を排除する。

(拙い、大将の方へ向かっている)
敵は廃墟の影を通って大将に近づく。
「大将、もう動いて大丈夫です!いえ、今すぐその場から動いてください!」
村田中佐は大声で叫びながら小銃を抱えて走り出した。

「おお、そうか。分かった」
猫舌は起き上がった。
村田中佐の声からすると敵が此方に向かっているらしい。
「ひとつ、相手になってやろう」
S&Wの44DAフロンティアの入ったホルスターに手を掛けて敵が来寇するのを待った。

(敵の策略か?それとも本当に動けるのか?)
村田中佐の声を聞いてクプクマンジュー少尉は一瞬思考した。
一応日本語は多少出来る。
直訳した結果、敵の狙撃手はアドミラルに動くように言っている。
(まあいい、既に包囲されている。それなら敵の首をあげるまでだ)
小銃から最後のクリップが弾き出される。
敵兵に小銃や装具を投げつけて身軽になった少尉は木刀を手に猫舌のいる方へ向かった。

(確か、ヤツはこっちを通るはず)
息を整え敵を待つ村田中佐。
「隙有りッ!」
真上から木刀を振りかぶり此方に向かって落ちてくる米兵。
「間に合わない!」
銃を米兵に合わせようとするがそれより落ちてくる速度の方が速い。
鈍い音をたてて自動小銃の銃身が曲がる。
米兵は一度距離をとった。
咄嗟に村田中佐は小銃を捨てて腰に差している武州吉武二尺三寸を抜く。
「オレはこっちの方が得意なんだよ!」
そんな事を言って木刀を振りかぶり凄まじい勢いで突進してくる敵。
蜻蛉の構えで迎え打つ中佐。
「ウォォーッ!」
「ヤェーッ!」
一瞬の差であったが村田中佐の方が速かった。
断末魔の叫びを上げて倒れるクプクマンジュー少尉。

だが事件はこれで終わらなかった。


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