大 阪戦役5

「大阪要塞1954」


淀川を渡河した山陽道軍は中之島へ向かって進軍を続けていた。
目標は大阪市役所だ。
途中、国道1号線を西進して来た山陰道軍第一師団と合流した。

第427師団を追い大阪城の東側に出て両翼包囲するという手もあったのだが
まだ米軍は他に無傷の2個師団を有しており、さらに外道川軍もまだ多数健在であることから
各個撃破される危険性があったので逃げられる可能性はあるが
国道25号線を中心に進攻の重点を置き戦力を集中して南下するつもりだ。

国道25号線上の目の上のたんこぶ…それが大阪市役所だ。
大阪市役所には大阪市長と外道川特選隊なる部隊が存在すると言う。
特に外道川特選隊の司令官は同時に大阪における外道川軍の司令官を兼ねている。
この司令官を倒せば大阪の外道川軍は士気が低下し指揮系統をズタズタにできると踏んでいた。


堂島川北岸

市役所のある中之島には精鋭部隊である外道川特選隊が守備しており、簡単には上陸できそうも無い。
中之島に架かる複数の橋は外道川軍が撤収するときに悉く爆破され
重装備が川を渡るには新たに架け直すか舟艇を使うしかなかった。
真・日本国軍は堂島川北岸に戦車を並べ、重門橋や折畳舟が突入指示を待っていた。
大阪港から安治川を遡上してきた砲艇(機動砲艦)隊が中之島に到着したら攻撃開始である。


大阪市役所

非常に体格の良い人物が市長の席に座り唸っていた。
「猫舌の手下が川の対岸にまで到着したか…」
その人物こそ大阪市長、村友 昆度留だ。
かつて海賊をしていたらしく南極海でイヌイットの皆さんを脅し上げていたという。
野球経験があるらしく体はその時に作ったのだろうか。
「市長、まさかあなたまで猫舌に寝返るつもりでは無いな?」
ヌンチャクを持った男が市長の背中に立った。
「司令官、私は外道川閣下の下僕ですよ?猫舌に寝返るわけ無いじゃないですか」
司令官…このヌンチャクを持った男が外道川特選隊司令官、前田 靖正である。
「フンッ、どうかな?まあ猫舌は占領地の外道川派を捕まえて
重罪の者を片っ端から財産没収のうえ処刑しているようだが」
市長は司令官の言葉に青ざめた。
重罪の定義次第だが「大阪要塞構想」をぶち上げ積極的に反猫舌運動を煽ったのだ
もしかしなくても捕まったら処刑されるのではないか、相手は何せ「暴君」を自称するような人物だ。

「まあいい、第913保安隊の敗残兵に加えベムラーの第333保安隊や大阪鉄ビン組もいずれ到着する。
いくら猫舌が兵を集めたところでこれらの部隊が居れば米軍が駆けつけるまでの時間は稼げる」
前田司令官は一呼吸おいて続けた。
「問題は安治川を遡上している砲艇隊か…」
安治川下流の奥まで来ている真・日本国艦隊の支援砲撃で砲艇隊を攻撃する予定だった部隊は
悉く大損害を受けて撤退してしまっている。
機雷も何度か流したが吃水の浅い砲艇相手ではあまり効果は無かった。
今までの戦闘から考えて砲艇隊が中之島に到着と同時に真・日本国軍の攻撃は開始されるだろう。
(…時間はあまり無い…)
前田司令官は粉味噌がかかった握り飯を食べ内心焦りながら策を考えていた。

「あの自称金持ちめ…」
前田司令官が去ると市長は毒づいた。
前田司令官はカジノで大借金を作る前は確かに金持ちであった。
だが、カジノで大敗を喫して身一つで外道川首相の下に転がり込んだ。
それ以来外道川首相に恩義を感じているのか外道川首相の為にはありとあらゆる手段を講じていると言う。
彼の指揮下の外道川特選隊も似たような境遇の人間で編成されているせいか手足のように働き
大阪市の治安維持に役に立っている。
だが日に日に猫舌派の影響が大阪市内でも見られるようになり、特選隊がスパイ狩りに使われている。
大阪市内に厳戒令を出したのも前田司令官だ。
大阪要塞構想が遅々として進まない事に業を煮やした彼は大阪市民や大阪鉄ビン組のような連中まで使い
工事を強行。不満を持つ市民に猫舌待望論が広がったが「猫舌は徳川幕臣の子孫」宣伝が成功しなかったら
大阪要塞は内部から瓦解するところであった。


堂島川北岸

双眼鏡を手に猫舌は敵陣を観察した。
「閣下、危険です!敵陣から200mきっています」
副官が心配そうに猫舌に下がるように進言する。
「指揮官が危険を恐れてどうする、危険を冒して奮迅している部下に示しがつかないだろう」
猫舌は双眼鏡を覗き諭すように副官に言った。
「閣下、砲艇隊が到着します!」
伝令が走ってきた。
猫舌はそれを聞いて無言で頷き右手を上げた。
そしてゆっくりと手をふり下ろす。

「戦闘用意、かかれー!」
副官が叫ぶ。
復唱する指揮官達。
川岸に並べられた戦車が砲撃を開始する。
機動砲艦や装甲艇が水面を駆け回り敵陣に射撃を加える。
応戦する敵陣。
水陸両用戦車やDD戦車が対岸に向けて進みだした。
その後に続くように歩兵を乗せた折畳舟や重装備を載せた門橋が動く。
「さて、儂等も行くとするかのう」
猫舌達も折畳舟に乗り対岸を目指した。


堂島川南岸

「クソッ、敵が強すぎる逃げるぞ!」
敗残兵が持ち場を離れようとした時、彼を銃弾が貫いた。
「退却は許されない!外道川首相のために死ぬまで戦え!」
後方に居る特選隊が下がろうとした敗残兵を撃ったのだ。
「畜生、あいつ良いヤツだったのに!」
敗残兵は涙ながらに銃を北岸に向けて発砲した。

上陸した戦車が機銃を瞬かせ塹壕を蹂躙した。
前線も後方も見境無く片っ端から敵陣を撃破する。

南岸に上陸した猫舌と直参大隊。
「大将、この配置は…」
板橋が珍しく言葉を濁した。
「ああ、大陸で共産主義者相手に戦った時と同じだ」
猫舌は塹壕の死体を見て一瞬瞑目した。
督戦隊を後方に配置して最前線に敗残兵等を置く戦術だ。
「まさか内地でこの戦術を見る破目になるとは…」
猫舌はそう言って先へ進んだ。


大阪市役所前

「下がるな!戦えッ!」
退却してきた敗残兵を撃ちまくるM48機関銃。
ジョンソンM1944機関銃をベルト給弾に改造したものだ。
普通の保安隊はM1919機関銃を渡されているが彼ら特選隊は精鋭。
米軍でもまだ全部隊に支給されきってないM48を使うことが出来るのは単に首相に対する忠誠心の高さゆえか。
奮戦する特選隊。
だが真・日本国軍の無慈悲な攻撃により数を減らしていく。


大阪市役所内

「猫舌は指揮官先頭をモットーにする男だ、たぶん市役所の中にも入ってくるだろう」
「そこを挟み撃ちにすれば良い訳ですか」
「ああ、そうすればあの死に損ないとて一たまりも無い」
前田司令官と市長は作戦を話し合っていた。
「猫舌が来ました!」
市役所所員が走って入って来た。

「儂の首が欲しいのだろう、出て来い!」
猫舌市役所のホールで一喝する。
「いかにも!私が外道川徳選隊司令官の前田 靖正だ!」
階段を下りて現れる前田司令官。
「ヌンチャクか…」
山陽道軍司令官 風呂戸中将について来た参謀長のジャーキー・チェーンがキッと前田司令官を見据える。
「ジャーキー…戦いたい様だな。良いぞ、思う存分戦って来い!」
猫舌が許可を出すとジャーキーはヌンチャクを手に前田司令官と相対する。

一呼吸おいて両者が激突する。

「ハァァァア!!」
「アチョー!!」
前田司令官は気合を入れ、ジャーキーは怪鳥音を上げながら戦う。
ヌンチャク同士が激しくぶつかる。
両者の戦いが目にも留まらぬ速さで展開される。
ヌンチャクが体にあたり負傷するが形振り構わずに続ける。
お互いボロボロになりながら戦い続ける二人。

「!!」
僅かな隙を見逃さなかったジャーキーの一撃が前田司令官を捕らえた。
「ウオァァーッ」
断末魔の声を上げて前田司令官はその場に倒れた。
「あなたの純粋な思いは確かに強い、だが純粋ゆえの脆さもある事にあなたは気付いてなかったようだな」
ジャーキーはそう良い残してその場から去って行った。

「猫舌造兵大将!市長を捕まえました」
兵卒が市長を連れてきた。
「貴様が、大阪市長か」
「はい、閣下が来てくれたおかげで外道川の狂信者どもが追っ払われました」
笑顔で答える大阪市長。
「そうか…市長、儂が嫌いなものはなんだか知っているか?」
笑顔のまま沈黙する市長。
「風見鶏だ、市長貴様戦わなかったな…貴様に前田司令官を馬鹿にする資格は無い」
猫舌は冷たい目で市長を見据える。
「そ、それは…、でも私はこうして投降しているわけですし」
顔を笑顔のまま引き攣らせて言葉を濁す。
「暴君に非暴力は通用しない!」
市長の顔を猫舌はひっぱ叩いた。
「虚弱なクセに馬鹿にしやがってよぉー、何が暴君だ…亡君にしてやる!」
逆上した市長が服から隠していたグプメタル製ゴルフクラブが出して振りかぶる。
「ひびゃ!」
板橋が市長の鳩尾に一撃入れて黙らせた。
「…面従腹背か…」
一同同じ言葉を漏らした。


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