大 阪戦役3

「鴫野・今福の戦い」

真・日本国の山陰道軍所属第一師団は国道1号線を猛烈な勢いで南下していた。
(暴君侵攻隊だ)
通過中に見る地元民の目は冷ややかだった。

複数回の戦闘で京都市を灰燼に帰した事もあり、今度は自分達が焼け出されるのではないかと
危機感を募らせ大阪市から脱出を試みようとする者が続出。
外道川政権は猫舌を「東京都民」に仕立て上げ(正確には千葉県民)大阪府民の敵愾心を煽った。
京都では「鳥羽・伏見の戦い」が起きる前に「昭和甲午の変(禁門の変)」で大火が発生したが
この時外道川政権が対応を誤った為、市民が真・日本国に好意的な感情を抱くようになり
猫舌が京都入りした時は熱烈な歓迎を受けると言う事態になった。

ここから反省して情報戦を徹底した結果このような情報が流されるようになる。
さらに猫舌の出自は徳川家の家臣の子孫であり、外道川首相は豊臣家の家臣の子孫であると言う情報も流した。
まあ猫舌の父親は確かに短い間であるが幕臣だったのでこの情報はあながち嘘ではないが。
太閤様大好きの大阪府民にこの宣伝は効果覿面だった。
外道川政権は志願者が多数出たので保安隊を拡張し、さらにこれを支援する組織などを旗揚げした。
結論から言えば、こうした大阪府民の態度が猫舌の大阪での暴挙を誘発するのだが…。


鴫野

はにわの様な格好で銅矛を持った男が北東を睨んでいた。
(遂に来たか…)
第000保安隊隊長 機相田 柔道はテニスの達人としても有名だ。
彼は真・日本国軍が来訪するのを心待ちにしていた。
反外道川派の彼は折を見て真・日本国に合流しようと目論んでいた。
心の準備は出来ている。
真・日本国の工作員にも連絡をつけた、もう後には引けない。
今福に展開している米軍を挟み撃ちにして大阪城への入り口とするつもりだ。


今福

ジューン・ヤオーイ中将は指揮下の第427歩兵師団に戦闘配置に就くように命じた。
「ネコジタの手下を倒してあのマッキンタイアの鼻を明かしてやるぞ!」
「オーーッ!」
装備こそ旧式だが将兵は意気込んでいた。
旧式といっても朝鮮戦争初期頃の装備であり、第二次大戦末期頃の装備の真・日本国軍とは雲泥の差である。
士気では同等でも装備はこちらの方が上であり負ける要素など無いと自信満々であった。

真・日本国軍は国道1号線を中心に展開しながら南下して来ていると言う、戦闘までもう少しだ。


今市

真・日本国軍は岩丘 虎臣造兵中佐の戦車連隊を先頭に国道1号線を進んでいた。
先頭を行くチャーチル歩兵戦車に砲弾が命中する。
角度が良かったらしく砲弾は弾かれてどこかへ跳んでいった。
「パーシング!」
無線から緊張した声が飛んでくる。
「ブラックプリンスを正面に出して!後は平押しだよ」
無線機に向かって怒鳴る岩丘中佐。
迂回するにも周りの道路は全て他の部隊が使用中で通れそうもない。
戦車同士の撃ち合いの中、神戸 榛名中佐の歩兵大隊が前進。
敵戦車に近づいていく。
途中で建物に潜んでいた歩兵相手に撃ち合いになったが数に勝るこちらが押し切った。
至近距離からスーパー・バズーカを撃ち込んでパーシングを撃破した。

各所で戦車を中心とした即席陣地に何度もぶつかったが練度と勢いがある真・日本国側が押し切る結果となった。


鴫野

「よし、今だ!」
機相田隊長の命令により米軍への攻撃が開始された。
第000保安隊は猫舌が京都を制圧する前からいた保安隊員が中心であり、
隊員の反外道川政権意識も高かった為に出来た行動だ。

突然の攻撃に第427歩兵師団は浮き足立った。
(何もかも計画通りだ)
そう考えた時、通信兵が顔を青くした。
「今里方面から第333保安隊がこちらに向かって突撃してきます!」
「!!チッ、予想より来るのが早いな。ベムラーの隊を迎撃するぞ!」


関目

「敵の増援が第000保安隊を攻撃しています!」
「まずいな…第000保安隊との連絡線は確保できたか?」
伝令の報告を聞いて馬菜名 獣酢中将は参謀に尋ねた。
「新喜多の橋を確保すれば完了です」
「一番近いのは誰の隊だ?」
「薩摩第一大隊です」
「黒田中佐の隊か、藪をつついて蛇を出すことにならなければいいが一応急がせて見るか」
馬菜名は伝令を出した。

蒲生

「『至急、橋を奪取せよ』か…」
黒田 清音(くろだ きよね)中佐は伝令から指示を受け取り顔を歪ませていた。
「突っ込むならオレにまかせてくれ」
桐野 半(きりの なかば)中佐が声をかけてきた。

何故同じ大隊に中佐が二人いるかというとポスト不足が原因だった。
真・日本国軍は総兵力こそそれなりにあるが陸上部隊は逆上陸作戦開始以降加わった隊は保安隊を除くと
一人の有力者を中心にその郎党で構成されている部隊が大半で
指揮官をおいそれと変えることが出来ないと言う問題に直面していた。
勢い猫舌部隊出の士官は陸戦隊内で異動せざるおえなくなり中佐が同じ大隊に二人いると言う事態になった。

一応先任は黒田中佐だ。
二人とも剣の腕は折り紙つきだ。
特に桐野中佐は海軍兵学校女学部時代、榛名と抜き打ちの速度で張り合った猛者だ。

黒田中佐は彼女の力量を知っているので任せることにした。


鴫野

警査(兵に相当)がガーランドやBARを持って走り回る。
火力では同じくらい練度はこちらの方が上だが、士気と勢いではベムラーの隊の方が上だ。
大方ベムラーが無双状態でこちらの警査を蹴散らしているのだろう。
「真・日本国の増援はまだか!」
苛立つ機相田隊長。

「朝敵猫舌に与するとは情けない、今投降するなら罪は軽いぞ」
背後から声が聞こえた、声のする方へ振り向くと袖がビリビリに破けた服を着た男が立っていた。
彼こそ先程から話題に上っていたベムラー ヨシカズだ。
「ティクターリク」を食べたと言う伝説がある豪傑で日系亜米利加人だ。

グプメタルでできている、トイレのつまりを掃除する器具…
通水カップとか色々呼び名のあるアレだ…を持ってこちらに近づいてくる。
(ちなみに猫舌は昭和甲午の変で部下が御所に向かって発砲した廉で朝敵扱いされている)
「断るッ!、苛政が続くくらいなら暴虎にかけてみる」
「愚かな!ヤツが今まで何をしたと思っている」
機相田の答えに軽く絶望するベムラー。
「確かに猫舌大将はやる事が過激だ、だが外道川政権ほど腐ってはいない」
「そこまで言うならもう止めはしない、貴様を倒す!」
ベムラーは通水カップを構えた、機相田も銅矛を構える。

一瞬沈黙が支配したがすぐに両者は動き出した。
実力者同士の激しい衝突が起きる。
両隊の警査は激しい動きについていく事が出来ずただ呆然と立ち尽くすのみだった。
延々とそれがどちらかが体力切れを起こすまで続くと思われた。
だが、決着は思ったより早くついた。
激しい戦いで銅矛が折れてしまったのだ。
「眠れぇーッ!」
ベムラーの激しい突きが機相田を捕らえ、機相田は吹き飛びビルに衝突した。
機相田はその場に斃れた。

「クソッ、遅かったか!」
息を切らして桐野中佐達が駆け込んできた。
「今日の俺は機嫌が悪い。そこの真・日本国の将校、貴様との戦いはまた今度だ」
そう言ってベムラー達は去って行った。
手勢も彼女自身も万全ではなかった為、ベムラー達を見送るしかなかった。


今福

「ぐっ、ネコジタの手下に押されていると言うのか…」
ヤオーイ中将は司令部で唸っていた。
「こうなったら、正面を突破して味方の勢力圏まで下がるか」
「閣下、ここは臥薪嘗胆を。中央大通まで敵を迂回して下がりましょう」
「ぐぬぬ…わかった」
参謀に説得され第427師団は真・日本国軍を迂回する形で大坂城下まで下がった。


こうして鴫野・今福を制圧した真・日本国軍は国道1号線を西進し大坂城下に雪崩れ込んだ。


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