大 阪戦役13

「貫甲地雷」


猫舌がジャージー・デビル曹長と死闘を演じていた頃
長居公園の周囲で第555師団主力と重砲兵大隊防衛の為に
配置された真・日本国軍各隊が戦闘を繰り広げていた。


西田辺

第555師団「A」戦闘団と対峙していたのは大鳥 圭陸軍中佐の伝習隊だ。
この伝習隊と言うのは現代風の呼び方で言うところの教導隊である。
規模は連隊。
将兵は外道川政権から離反したもの達である。
この部隊は元は外道川特選隊同様、精鋭部隊として位置づけられていた。

装備は最新の米式で朝鮮で戦っている米軍とほぼ同じ物を使用している。
ただし兵員は無頼の徒と言えば聞こえは良いが要するに博徒だの無宿だのである。
ただそれだけは足りなかったのか監視の為なのか消防吏員まで編成に入れている。
彼等は基本的に外道川政権に忠誠心が無く、金で雇われているも同然であった。

鳥羽・伏見の戦いに一部が参加したが大した活躍も無くむしろ
士気の高い真・日本国軍に損害を受ける破目になった。

士気が低下していた時に外道川私設軍所属の大鳥 圭中佐が説得に入った。
彼女は学生時代仏人ブリュネとも親交があり語学にも堪能で同時にテクノクラートでもあったが
彼等を見下さず「犬猫じゃないんだから理をつめて話せばわかりますよ」と上司に言っていたが
彼女の口から出た言葉に将兵は肝を潰す。

「外道川から離れないか?」
彼女は督戦の為に来たのではなく離反を勧める為に来たのである。
元々彼女は海軍兵学校女学部の出で学生時代、後に真・日本国の中堅になる佐官達と友人であった。
なんとか第二次大戦を生き抜き、外道川政権が私設軍を作る時
志願し来るべき時に備え決意を胸に仕舞い日々過ごしてきたのだ。

そんな彼女の決意も知らずに接してきた将兵達は最初は戸惑っていたが
彼女の説得に応じ部隊ごと真・日本国に亡命した。

真・日本国側としてはどう扱えばいいのか困り大阪戦役では後方に予備兵力として配置していたが
それがこんな形で役に立つとは誰が予想し得ただろうか。


「撃て!」
分隊長の命令にM48軽機(通称:ベルト・ジョンソン)が火を噴く。
薙ぎ倒される獣人兵。
敵の(T29)マッカーサー重戦車の105mm砲弾が周囲に着弾する。
吹き飛ぶ家屋。
砲撃が止むと今度は歩兵を伴った状態で前進してくる。
戦車の動きは直線的だったが、圧倒的なその防御力の前では
持ち前の対戦車火器では正面から撃破出来ない。

お互いに小銃の射程に入る頃、突然戦車が爆発した。
「間に合ったか!!」
分隊長は思わず後方を見た。
そこにはジープに乗った106mm無反動砲があった。
一撃離脱を繰り返して米戦車に損害を与えていく。

ここの戦闘は米軍を撃退ことにより真・日本国側の勝利に終わったが
伝習隊が守備する他の陣地では何箇所か突破される所が出た。


東住吉

第555師団「B」戦闘団と古屋佐久二等保安正指揮下の衝鋒隊が交戦していた。
伝習隊が外道川私設軍所属だったのに対してこちらは保安隊所属だ。
こちらも鳥羽・伏見の戦いで真・日本国軍と交戦。
元は別々の連隊だったのだが、両連隊の連隊長が負傷するなどあって戦線を離脱。
その後、督戦しに来た外道川私設軍の士官を殺害。武装したまま集団で脱走を図った。
東京から古屋二等保安正が駆けつけてなんとか収まるかに見えたが、
なんと古屋二等保安正は「脱走するくらいなら真・日本国についてしまえ」と煽る始末。
まあ、やはり二等保安正も真・日本国に友人が多数いた関係もあってか
そのまま隊を率いて真・日本国軍に合流。

両連隊を糾合して衝鋒隊と号した。
鳥羽・伏見で連隊長が負傷するほど激しい戦いを演じたせいで
兵力は両連隊を合わせても連隊規模であった。
休養もかねて後方に配置していたが、米・外道川軍が動くとの報に予備兵力として展開していた。

装備は他の保安隊と同じくやや旧式であるこの連隊は伝習隊以上に米軍の猛攻に苦戦していた。
「大砲隊の支援はまだ?」
連隊副長の今井 信(まこと)三等保安正は焦りを感じていた。
(このままだと押し切られるわ…)
ちなみに「大砲隊」とは山川 浩美二等保安正指揮下の特科連隊で
この連隊も鳥羽・伏見で損害を受けた、林 安夏一等保安正と
白井 五子(いずこ)二等保安正の特科連隊を合わせた物だ。
「山川二等保安正も苦労しているみたいね」
古屋二等保安正が落ち着いた物腰で言った。

「地雷の埋設が完了しました!」
伝令が連隊本部に入って来た。
「よし、相手に気付かれないように下がって!」
古屋二等保安正が指示する。

「退却だ!」
警察士補(下士官に相当)の言葉を合図に一斉に下がる警査(兵に相当)達。
それを見て雄たけびを上げながら追撃してくる獣人兵。
それを追う米軍戦車隊。
塹壕に飛び込む保安隊員。塹壕に入ろうとする獣人兵。
後方の中機関銃が射撃を開始。
迂回しようとした獣人兵が地雷を踏み吹き飛ばされる。
戦車を押し立てて進もうとするが戦車も貫甲地雷で擱座する。

この「貫甲地雷」とは何か。
「破甲榴弾」がAPHE、「穿甲榴弾」がHEAT。
ならば「装甲を貫く地雷」とは何か。
SFF若しくはEFPと呼べば解る人は解るだろう。
そう現代風に言えば自己鍛造弾と呼ばれる物だ。
亡命したナメクジドイツ軍将校が持ってきた技術の一つで
直径の大型化の容易な地雷に応用されたのだ。

これを大量に仕掛けて次々と突進してきた敵戦車を擱座させた。
だが、彼等は怯む事を知らなかった。
損害を無視するかのごとく、突撃を繰り返し遂に衝鋒隊を突破してしまった。


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