大 阪戦役12

「燃える大坂城」


「ああ、太閤様のお城が燃えている…
猫舌は京都だけでは足りず大阪の街まで焼こうと言うのか」
ヒゲ島抹殺曹長が天を仰ぎ見た。
大阪城は天守閣は破壊され至るところに黒煙が昇り終末を迎えようとしている。
「曹長、出撃命令だ。これから猫舌の首を取りに行くぞ!」
中隊長が言った。
「クソ野郎猫舌を地獄に叩き込む良いチャンスだ。今に見ておれ!」
曹長は決意を胸に部下に指示を出した。


「敵の総大将である猫舌提督を討てば、まだ勝機はある」
見るからに理知的で研究者肌のような男が立っていた。
彼の名はスカンク・エイプス、階級は中将。
第555師団の師団長だ。

彼の部隊は獣人で編成されている事は以前述べたが、
それもこれも彼の研究が無ければ到底戦力化出来なかっただろう。
獣人「ビックフット」の調教して兵に仕立て上げる事に成功したが
それでも簡単な指示しか聞かないうえに度々脱走して
市内で狼藉を働くなど米軍内でもお荷物扱いである。

彼はシベリア移民の子孫であり、自分の祖先を受け入れてくれた
合衆国の為に自分の研究を差し出した。
(この反撃が失敗したら命も差し出す事になるだろうが、
まあ私なりのステーツに対する『義務』と言うやつだ)
そんな事を思いつつ視線を地図に戻した。

真・日本国は統率は偏に猫舌提督のカリスマに頼っている。
それは先の真・日本国軍の攻勢を見れば解る。
猫舌提督さえ討てば後は烏合の衆だ。
次席指揮官の大黒提督は呉の連合艦隊司令部だ。
基本的に後方で調整するのを得意とするタイプだから
最前線で陣頭指揮を執るのは苦手のようだ。
どちらにしろ猫舌提督を討てば少なくとも大阪失陥は当分先に延びる。
時間さえ稼げれば名古屋や東京から補充や増援が送られてくるだろう。
数で圧倒できれば、装備劣勢なうえ猫舌提督の居ない真・日本国などとるに足らないだろう。

作戦はまずパラノウィッチ中将の第893師団が真・日本国軍を攻撃する。
そして敵が動いたら素早く退却して敵主力をおびき出す。
その隙に第555師団が敵本陣に突進、猫舌提督と後方にある重砲を撃破する。
これまで主だった戦闘に投入されていないから頭数だけならなんとかなる。
猫舌提督の”ジキサン”は歩兵大隊程度、数で圧倒できるだろう。


大阪城一帯から砲撃が開始される。
この戦いで負けたら大阪失陥は時間の問題に
なるだけにありったけの装備と弾薬を用意した。
と言っても射程のある重砲の類はあまり用意できず、
野砲や迫撃砲主体で特に迫撃砲の数は凄まじい集中振りである。

徹底的に鋤き返される前線。
最早、人家どころか無事な木すら残らぬ凄まじさだ。
そして弾幕が後方へ向かって移動し始めた。
喊声をあげて攻撃する第893師団の兵達。
真・日本国側も反撃する。
そして総崩れになったかのように第893師団の兵は退却しだした。


「追え!ここで連中を撃破できれば後は弱兵ばかりだぞ!」
風呂戸中将が有線電話で檄を飛ばす。
真・日本国軍は見事に釣られたのだ。
松屋町から玉造までを結んだ線に防衛線を敷く米軍。
防衛線内に第893師団を収容したころに追撃をしてきた真・日本国軍が到着。
激しい戦闘が行われた。


一方、緑橋方面では第427師団残党や外道川軍が馬菜名中将
指揮下の第一師団相手に猛攻を繰り広げていた。
特に第333保安隊のベムラー・ヨシカズ相手に真・日本国軍は手を焼いていた。


「猫舌大将!獣人らしき集団がこちらへ向かっています!」
通信兵が怒鳴る。
「予備兵力を遂に投入したのかのう…小鳥遊にはちと早かったか…」
猫舌は一人ごちる。

第555師団は国道25号線上の真・日本国軍諸隊を撃破しながら
茶臼山町の総司令部へ向けて突進していた。

真・日本国軍諸隊 大阪方面旅団は難波球場に司令部を置いている。
その旅団司令が小鳥遊 明信少将だ。

この真・日本国軍諸隊とはようするに真・日本国を支持する
(正確に言うなら反外道川政権なだけの)真・日本国支配地域の
有力者がバスに乗り遅れまいと郎党を連れて従軍している部隊で
士気も低ければ戦力としても怪しい集団で三線級・四線級部隊の総称である。
はっきり言えば雑軍なのだが…いや軍として体を成していない。

何故このような集団を軍に入れているかと言うと
真・日本国軍が強大な米・外道川軍に対して兵力不足である事と
大阪における反猫舌感情の強さが原因らしい。
特に一般市民が猫舌に対して武装蜂起する事を恐れていた猫舌は
これらの監視の為に諸隊の中でも比較的統制がとれている連中を配置したのだが
それでも駄目だった。

第555師団に対して沖合いから艦砲射撃を浴びせるにも
敵味方が入り混じった状態では到底出来ない。

「前兵衛、敵は一個師団だ。やれるか?」
猫舌は傍らに居た板橋主計特選少佐に尋ねる。
「やるしかないんだろう?大将」
いつもの口ぶりで答える板橋。
「ああ、敵の狙いは儂の首と後方の『国崩し』だ。
本陣を平野区に移動、混乱が回復するまで総司令官を大黒大将に委譲する」
猫舌が言った。
「猫舌大将、まさか…」
参謀達がうろたえる。
「そのまさかだ、儂はここに残って第555師団を迎え撃つ」
猫舌は言い切った。
「我々も残ります!」
参謀達が噛み付いた。
「良いか、儂が居なくても軍が動くように貴様等を選んだのだ。
貴様等が居ればまだ軍を立て直す事ができる。
(大黒)鐐次のヤツは嫌がるだろうがヤツなら組織を動かす事ができる
皆で力を合わせて新しい日本を作るんだぞ」
猫舌は何時に無く優しい表情で言った。
「はッ!」
参謀達が猫舌に敬礼し去って行った。


第555師団の進撃は快調であった。
その秘密はシンプルな命令だ。
『目に付く敵をとにかく倒せ』
これだけである。
一部の部隊が敵を攻撃している間に他の部隊がそれを無視して後方を突破する。
つまり多少効率の悪い浸透戦術のようなものである。
進行方向は士官や下士官が指示しているので大丈夫だ。
ただそれを旅団規模の相手に師団が行っているのだ。
やられた方はひとたまりもない。
難波球場の小鳥遊提督を1個大隊で包囲して残りはそのまま南下。
ここまでは出来た。

計画では
茶臼山町の猫舌提督に先程1個大隊を抽出した連隊を宛て
残りの2個連隊で長居公園の重砲を破壊する。

(この調子ならいけそうだな)
エイプス中将は計画通りに進んでいることに満足していた。


蛻の殻となった本陣。
残っているのは直参部隊だけ。
雄たけびを上げ突進してくる獣人兵。
直参部隊の水冷式ブローニング機関銃が火を吹く。
仰け反る獣人兵。

猫舌も自ら出てホルスターストックを付けた
ベルグマン・ベアード拳銃(9mmパラベラム改造)を発砲する。
2〜3mもある巨人相手に猫舌は戦う。
60代とは思えない動きで相手を翻弄し確実に銃弾を急所に叩き込む。
次第に猫舌の周りにはビックフットの死体が積みあがった。
手持ちの9mmパラベラムを使い切った猫舌はホルスターに拳銃を戻した。

「デビルマッサツゲリ!!」
頭上から得体の知れない生物が飛んできた。
殺気を感じた猫舌は咄嗟に屈む。
抹殺蹴りがビックフットの死体に命中して死体が溶ける。
「ビックフット以外の獣人だと?」
猫舌も流石に驚いた。
「オレハ『サージェント・メジャー・ジャージー・デビル』ダ!」
カタコトの日本語で喋るジャージー・デビル曹長。
「クソヤロウ ネコジタ ソノクビ モラッタ!!」
そう宣言すると空高く舞い上がる。
「そう簡単にやらんぞ!」
猫舌は見上げながら言った。
「デビルマッサツゲリ!!」
再び急降下してくる。
ひらりと躱す猫舌、地面に穴を開けるジャージー・デビル。
素早く脇のホルスターからバージェス・ショットガンを抜き放った。
折り畳んであった銃身が縦に半回転して機関部に固定される。
猫舌は至近距離から発砲した。
さらに曲銃床のピストルグリップ部分にあるスライドを前後させて
薬室に装弾を叩き込みもう一回発砲。
敵は両翼に穴をあけられたがまだ動けるようだ。
脚力も高くこちらに向かってこようとする。
猫舌はポケットから12ゲージスラグを取り出し装填。
突進するジャージー・デビルの頭を吹き飛ばした。



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