九州橋頭堡39
「この門を潜る者は一切の武器を捨てよ」

 「誰だ火を放ったのは!」
マイトガイ大佐は火災発生の報告を受けるなり青くなり怒鳴る。
「撤退中の友軍が敵にくれてやるなら焼いていやると……」
それをやった本人は憲兵隊が押さえたが既に市街地に延焼している。
「予定を繰り上げるぞ、プランBに変更だ。あと水上部隊に火元を耕すように言ってくれ」

プランBとは小倉以西の部隊は鉄道による退却を諦めて水上部隊による山口県側への退却を意味する。
更に火元を艦砲で爆発消火し退路を確保する荒業だ。
遅滞戦闘を中心とした防御計画が火点に使える市街地の焼失言う形で失われ
損害覚悟で打って出るか時間との競争で小倉の全部隊を撤退させるかである。

消火中の各隊には城下へ退却が指示されしばらくして艦砲の猛射が始まった。
今町などの城下周辺で遅滞戦闘中の各部隊は敵が猛射の音で怯んでいる隙に退却する命令が出る。

マイトガイ大佐はなりふり構わなかった。
消火が終わり次第、舟艇に少しでも乗せるために装甲車両は無論、小火器ですら捨てさせ
港に横づけした巡洋艦や駆逐艦、その他船ならなんでもと兵士を押し込み時間との競争を続ける。
そうとも知らず真・日本国軍側は焼け残った市街地を調べながら恐る恐る近づいた。
真・日本国軍が小倉城跡地の幽霊館に達した頃には既に蛻の殻であり、それどころか偵察にでていたゲリラが我先にと略奪を始める始末。
正規兵が幽霊館を制圧すると次は付近の倉庫や市街地で混乱に乗じて狼藉を働く者を処断して回り小倉城下で時間を空費してしまう。

大佐のなりふりかまわない撤退で小倉の部隊は無事収容を終え、戦線は門司方面へ動いていった。

 京築のパン親少将も下曽根占領とプランBの指示を受けて作戦を変更。
本来最終防衛線になる予定だった朽網が下曽根方面から南下する真・日本国軍を受け止め苅田から水上撤退を開始。
遅滞戦闘を無事こなし少ない損害で京築地方からの撤収を終えた。
孤立した各部隊も海岸までたどり着けた部隊は無事、収容されて行った。

焼け残った幽霊館周辺で日田口軍と福岡口軍が合流、再編成を終えて真・日本国軍は九州の残存勢力を追い落とすべく門司方面への進撃を開始した。
一方、門司の米・外道川軍は撤退時に追撃を避ける為になるべく真・日本国側に損害を与えてから下がるつもりだった。
そんな両軍は小倉から東へ2-3kmの場所にある赤坂にて戦闘を始めた。

幽霊館を手中に収めた事で全軍が油断していた事と郷里まであともう一息と焦った山口県人並びにその子孫の部隊が突出していしまい
逆に米・外道川軍に釣瓶撃ちに遭い大損害を受け退却、更に米・外道川軍は逆襲に転じて幽霊館目前まで追撃し真・日本国側を痛撃した。
富野の弾薬庫を押さえた別動隊が突進した米・外道川軍の側面を攻撃、目標を達成したのか米・外道川軍は城下から退却していった。
兵力の補充を受けた真・日本国軍は門司への侵攻を再開するも山口県側に展開した米重砲隊の瞰射を浴びて損害を出しながらの進撃
そして米重砲隊に対する対砲兵戦の実行、更には米・外道川艦隊と真・日本国艦隊との戦闘が起き九州の戦いは終局へ向かいつつあった。
米・外道川軍の殿がトンネルから撤退し九州を平定するに至るが敵戦力を捕捉し撃滅を目論む真・日本国軍の作戦は失敗した。


 もしマイトガイ大佐が撤退命令を無視して幽霊館に籠城すれば歴史は変わっていたかもしれない。
識者達は言う、物資不足で逆上陸作戦は失敗するとも。
物資の入手は無理だが米・外道川軍の捕捉・撃滅に成功し四国の戦線に皺寄せが行き外道川政権の崩壊が早まるとも……。


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