九州橋頭堡19
「末定軍の思惑」

山砲の砲声が轟く。
村友式山砲は、真・日本国の陣地と思われる場所へ砲撃を開始したのだ。

大宰府を守ろうとする末定軍。まず尖兵として、富士川隊が攻撃を開始。
末定将軍が大宰府を堅城として守護するためにも、敵戦力を削る必要がある。

他にも、思惑があった。

攻撃前の軍議によると、末定軍の食料が不足しているので、村本軍より、急ぎ
食料として乾燥トウモロコシ粉2トン、フナの干物300キロ、高野豆腐250キロ、
フラミンゴジャーキー100キロをトラックで大宰府に輸送中である。

食料を大宰府へ届ける時間を稼がないといけないのだ。
富士川は、重要な任務を担う重責に思わず顔をゆがませた。
しかし、これも父祖伝来の地を取り戻すためなのだ。
倭国再興の先駆けとして戦わないといけない。
そう覚悟すると、富士川はふところから貴重なフラミンゴジャーキーをひとつ
取りだすと、噛みしめた。

「進め」
富士川が叫ぶと、先遣隊が一斉に走り出した。

砲撃が辺りを吹き飛ばし、硝煙がもうもうと立ち込める。

末定軍の士官らしきものが、古古しい鉄の剣を抜いて号令する。
部下の兵士たちは一斉に伏せ、小銃を構えて弾丸を装填する。
「撃て!!」

真・日本国軍の尖兵らしき部隊を目視したのである。

実際にそこに居たのは、真・日本国に寝返って先導していた数名の投降兵
であったと言うが、たちまち血祭りに上げられた。

駆け寄る末定軍。
「幸先は良し、か」
富士川はほくそ笑んだ。
だが戦いは始まったばかりなのだ。他の軍勢が大苦戦している中、軽々しい
傲慢は死を招くだろう。

「敵の航空機がいます」
部下が叫んだ。

小型軽量の航空機が飛んでいる。真・日本国が開発した軽飛行機か、それとも
鹵獲した米軍機か・・・。
翼には日の丸のマークが記してあった。

「対空兵器も無い。急ぎ敵陣に殴りこむのだ」
末定軍は一斉に小銃に銃剣を装着して立ちあがった。

(村友軍に対空兵器があれば良いのだが)
富士川はそう思った。

一方、村友軍砲兵陣地では、次々に砲撃を加えている最中である。
火砲の運用に長けている村友であったが、対空兵器は少なかった。

零戦であろうか、航空機搭載機銃を、村友が考案した三脚に立てかけている粗末な
対空機銃が、わずかに二挺あるだけである。

「この三脚は、私自ら考案したのだ」
村友は豪語した。しかし、内心では対空兵器はのどから手が出るほど欲しかった品。

「末定軍は攻撃を開始したのであろうな」
双眼鏡を持ち、周囲を見回しながら村友は言った。

「はい。前進する姿が目撃されました」
部下が答える。


この時思った航空機への不安は、後に的中することになる。


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