九州橋頭堡13

「けじめ」

八幡軍は相次ぐ激戦で壊滅し、戦闘の中、長江肋骨ら幹部は戦死した。
浜根タケノコを射殺した長江金鉄であったが、もはや戦闘ができる状況では無かった。

「こやつをさらし首にしろ」
長江金鉄は激怒して浜根の死体を足蹴にした。
だが、そんなことをする状況でも無かった。
内紛を行っているうちに、八幡軍に攻撃が集中し、次々に損害が増えていたのである。

肋骨の死により、命令系統も混乱していた。
指令部を意味する「早」と書かれた将旗に銃弾が命中して倒れた時、長江金鉄は退却
命令を出すことになった。

軍は四分五裂となった。大砲などは打ち捨て、銃器のみ携帯して逃げ出す。

敗走する八幡軍。
死傷者、落後者、逃亡者が相次ぐ。

逃亡中にスーパー・イラン軍の偵察兵に出会い、八幡軍の敗北を告げた長江肋骨は、
力無くうなだれた。

その夜。

名前の知らぬ山中の山小屋で集まった八幡軍の将兵は、わずかに56名に過ぎなかった。
「久留米はまだか?」
たずねる長江金鉄。
「現在位置もわかりません」
答える部下。
さらに、部下は真・日本国の投降ビラを渡した。
「降伏すれば命は助ける。馬菜名獣酢・・・か」
長江金鉄は、投降ビラをビリビリに破いた。
「この世で一番危険な男・・・血に飢えた狼が何を言うか」
そうつぶやいた。

「無念だ。ここで八幡軍を解散する。諸君は自由に行動せよ」
そう言うと、長江金鉄は将兵らを前に、紅天狗茸を口にし、水筒の水を飲んだ。
それは死を覚悟した行為である。
「裏切り者のせいで戦に負けた。無念である」
軍旗にマッチの火をつけた。栄光ある旗が燃える。
「さらばだ諸君」
ついに、ピストルで自決してしまった。

指導者を完全に失った八幡軍。
その後は断片的な情報しか伝わらないが、長江金鉄の遺体を埋葬後、残った将兵は、
元騎兵大尉である、前川ヤスボーンを指揮官とし、どこへともなく旅立ったと言う。
その後の足取りは、わずかに山中を移動していた敗残兵により目撃があったが、すぐ
消息がわからなくなったと言う。

前川ヤスボーンについては、旧日本軍騎兵大尉で、その後外道川軍で勤務後、八幡軍
に入っていたと言い、浜根タケノコの友人であったと言う。
学生の頃、毒殺用の紅天狗茸の栽培法を開発したとして、少しだけ名が残っている。
長江金鉄の自決用紅天狗茸は、前川の所有物と言う噂もあるが、真偽不明である。

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