大 阪戦役18

「達人対剣聖」


竹刀を両手に持って兵卒相手に無双している人物が居た。
今や部隊を失い、孤軍奮闘しているパラノウィッチ中将だ。
彼の腕前は達人の領域に達しており並みの実力では相手にならない。

「貴殿は相当の剣の使い手と御見受け致す、
ひとつ小生と手合わせをお願いしたい」
そう言って現れたのは男谷 信子少将だ。

高等女学校時代習っていた講武実用流は、ずば抜けた技量のリボルバー使いが
多数いたことで有名だがで剣術だって他の流派には後れを取らない。
兵学校時代は直心影流を習い、さらに技量を高めた。
戦場を駆けること幾度、人格者でもあった彼女はいつしか「剣聖」と呼ばれていた。

達人の領域に達している中将を止める事が出来るのは
他にも剣の使い手は真・日本国軍に居たが、その場に行ける中では彼女が最適任だろう。


「真・日本国の『剣聖』男谷少将か、相手にとっては不足は無し」
そう言って中将は竹刀を少将へ投げた。
「形式は?」
少将は竹刀を受け取ると中将に尋ねた。
「最後まで立っていた方が勝ちだ」
中将は答えて竹刀を正眼に構えたまま蹲踞した。
それに遅れないように少将も蹲踞した。

摺足で近づく両者。
お互いに竹刀の有効範囲に達するとぶつかるように踏み込み
激しい鍔迫り合いが起きる。
隙を見て少将が逆胴打ちを決めた。
防具無しで竹刀の直撃を左脇腹に受けた中将。
顔を一瞬歪ませるが再び構えた。

再び激しい攻防が繰り返される。
防具無しの軍服姿で竹刀を使い本気で打ち合う二人。
その姿はある意味異様だったと言う。
中将が少将の胸に強烈な一撃を与える。
咳き込む少将。
だがやはり再び竹刀を構えた。


二人の激しい鍔迫り合いに竹刀が次第にボロボロになっていく。
それでも当人達は気にせずに続ける。
どれくらい続けていただろうか、お互いに体力を消耗しているはずだが
息を切らすような事はせず…いや微動だにせず神経を集中させている。
少将の上段から振りかぶった一撃が中将を襲い掛かる。
中将は竹刀で防御するが、中将の竹刀が折れ少将の竹刀が頭頂部に命中する。
次の瞬間少将の竹刀も折れた。

その場に崩れるように膝を着き倒れる中将。
「衛生兵!」
少将が叫ぶ。
「いや、いい…武士の情けと言うのを賜りたい…」
中将は仰向けに転がり消えそうな声で言った。
「中将は充分勇敢に戦ったではないですか!この場で死ぬ必要性は…」
少将の反論を中将は震える手で制した。
「私にも誇りと言うものがあるのだ…頼む…」
「解りました」
中将の懇願に少将は折れた。
「…ありがとう…君のような人と最後に戦えてよかった」
「中将、小生も貴殿のような真の武人と戦えてよかった」
少将の言葉を聞いて中将は満足そうな顔をして事切れた。


その後の調査でナニウォ・パラッチ大将は秘密の抜け道を使って後送されたが
後送中に死亡した事が判明した。


こうして真・日本国軍は大阪市を手中に収めた。
ただ、戦闘で町は荒廃しており再建には時間が掛かると思われる。
それでもこの町の人々はエネルギーに溢れ、いつしか巨大な都市を再建するだろう。

戦後しばらく経って行われた選挙でも臣民党の議員が当選出来なかった事を考えると
猫舌がこの町と人々に残した甚大な爪痕の根深さが解る。


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