戦後ラーメン列伝

第一話 伝説のラーメン屋台


太平洋戦争は、日本の敗北に終わった。

数年にわたる戦いは、国民の生活に大打撃を与え、死者もたくさん出て、混乱の時代が訪れていた。
そして、戦地にいた兵士が復員し、食糧不足と経済混乱が社会を揺さぶっていた。

戦後混乱期を象徴するものの一つが、闇市である。
物資が不足し、混乱した日本社会。政府の物資は欠乏し、統制も取れない中、国民が勝手に市を開き、勝手に商売をし、勝手に物資を買っていた。
値段は法外な価格ではあったが、商品はあった。売りに出せば、飛ぶように売れた。

東京にあった闇市で、戦後数年してあるラーメン屋の名が口コミで広まっていた。

「中華そばビート麺」

オンボロのリヤカー改造の屋台で移動し、チャルメラを吹いて回る。
小柄な、メガネをかけたチョビヒゲの男が一人でやっていた。

当時は食糧事情が悪く、味はそれほど求められた時代では無かったが、その店は抜群の味がした。ダシか具材を工夫したのであろうか、だんだん有名になりつつあった。

店主は客から「ビートさん」と呼ばれていた。店の名前がビートだからだと言う。しかし、店主は名前を聞かれると、必ずこう答えた。

「俺の名前は、ビートつよしだ」

伝説の男、ビートつよし。彼の伝説が始まろうとしていた・・・。



第二話 狂人の血筋(Loony Blood)


「中華そばビート麺」の店主、「ビートつよし」この男には誰にも言えない過去があった…。

彼には双子の姉がいて、両親がいる。
だが姉も両親も今は彼の傍に居ない、遥か遠く中国大陸に居る。
そう、彼の家族は現在日本国籍を除名され中国奥地で戦っている。
彼の名前は「猫舌 椎座」…父親は「猫舌 虎之助」
悪名高き猫舌部隊の長、悪逆非道の狂人司令官とか言われ色々と怨みを買った男である。

身長152cm痩せ型で、父より小さな体躯で旨いラーメンを作る彼は父親の若い頃にそっくりな顔を誤魔化す為、付け髭をしてリヤカーを引っ張っていた。

そんなある日、困った客が来た。
ホッケーマスクをした厳つい男…後で分かったのだが名前は 金曜田 十三日乃介 と言い特殊部隊崩れだったらしい。
彼はこの店の常連客を殺害したその足でこの屋台に訪れた。
そうとは知らずビートつよしは普段通りラーメンを出した。
彼はラーメンを食べてこう言い放ったのだ。

「この店はまずい」

その一言に空気が凍りつくのを感じた。
そして更に文句を言いながら代金を支払わずに去って行った。



第三話 マンドレイク・サタニズム

ビートつよしは、食い逃げヤローを捕らえるために屋台から出た。
「ウッー!!」
雑踏の中で人だかりができており、そこに人間の死体があった。


「善田のダンナ!!」

死んでいたのは、「中華そばビート麺」の常連、『善田 人志』と言う男だった。
体を縦に真っ二つにされていた。それは、金曜田 十三乃介 がやったことだった。

「ウオオオオーーーー!!」

ビートつよしは、善田 人志 の死骸を抱えて、男泣きに泣いた。

その夜、ラーメン屋経営の男は、復讐鬼に変貌した。
食い逃げヤローを抹殺し、仲間の仇を討つためである。

翌日、ビートつよしの知り合い「八本松の憲」から、ホッケーマスクの男を見たと言う情報が入った。
しかも、彼の尾行により、ホッケーマンの自宅が判明したのである。
「おどりゃあ!!始末つけてくれるわ!!」

ビートは、まず風呂に入り、手ぬぐいで浴槽の中で体を拭いた。そして、風呂から出た。
さらに、ヒシャクで風呂の湯をすくい、ラーメンスープを作る鍋の中に、何度も入れた。
そしてグラグラに煮た上でメンをゆで、ラーメンを作った。

ビートつよしは、ラーメンをかかえて町中へ消えた…。


第四話 因果応報

ビートつよしは金曜田の自宅の前に着いた。

無言で扉をノックする。
外でビートが手薬煉をひいて待っているとも知らず金曜田 十三日乃介は無防備で出てきた。
素早くビートが背後に回る。

「ん、誰も居ないな」
次の瞬間、彼は頭から熱々のラーメンをかけられた。
「ぎやぁー!!!」
彼はあまりの痛みに普段は出ないような声で悲鳴をあげた。
頭を抱えのた打ち回る金曜田。
「!!」
彼は気づいた、自分に無慈悲な視線を注ぐ男の存在を。
ビートは沈黙したままさっきまで熱々のラーメンが入っていたどんぶりを力一杯地面に向かって投げつけた。
どんぶりは地面にあたり破片となって金曜田に襲い掛かった。
破片は刺さり切り裂き金曜田に止めを刺した。

ビートは金曜田の自宅を後にした。

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