真・ 日本国航空戦史 大阪戦役編


真・日本国が伊丹飛行場を占領したことにより大阪における制空権は一気に真・日本国側に傾いた。
だが米軍は他地区に多数の航空兵力を擁しておりそれを移動させる事によって戦力の穴埋めを図った。
そして残る八尾飛行場には対空火器と電探を充実させ真・日本国軍を手薬煉をひいて待っていた。


加古川飛行場

「今回は伊丹の航空隊と共同で事にあたる、くれぐれも同士討ちにならぬように気をつけろ」
基地司令の訓示が続く。
「…である、解散!」
訓示が終わり搭乗員達がそれぞれ駐機してある愛機に駆け寄っていく。

暖気が終わりいつでも飛び立てる状態だ。
真愛知航空機「流星」改に乗り込み、準備を終わらせる。
「青木特務大尉、くれぐれも落とされないでくださいよ」
機体付きの整備一等兵曹が冗談交じりに言う。
「まあ、努力はするわ」
大尉は笑いながら返す。

青木 星子 特務大尉は腕は確かなのだが乗機がよく落とされたり大破したりさせることで有名である。
何度も落とされても必ず生きて帰ってくる事から「不死身」とか「死神に嫌われている」とかよく言われている。
そして後ろの偵察員席に座るのは第666航空隊司令 街渡川 羅針盤(まちわたりがわ こんぱす)予備中佐だ。
よく落とされる人の機に航空隊司令を乗せるのはどうかと思われるが、
中佐は大尉の腕に絶対的な信頼を置いていて
「撃墜後に着地失敗して怪我した事はあるが空戦で怪我した事はない」と豪語していた。

自分の順番が来ると垂直尾翼に青い彗星が描かれた機体がタキシングし始めた。
帽子を振って見送る整備兵達、それに答えて手を振り滑走路を徐々に速度を上げながら離陸していく。


大阪市上空

加古川飛行場を飛び立った海軍第666航空隊は
伊丹飛行場から発進した陸軍第九飛行団との合流予定空域である大阪市上空に入った。
そろそろ敵の迎撃機が現れる頃だ。
「エイぼん中佐、何か電探に映る?」
友人に話しかけるかのように街渡川予備中佐に尋ねた。
「星子さん、八尾から続々と上がっているみたいですよ」
こちらも親しげに青木特務大尉に話す。
「見えた!P-40Qよ」
黒い胡麻粒が続々と視界に入る。
中佐がてきぱきと指示を出し各隊は攻撃隊形に移った。

紫電改五はハ43の回転数をあげ通過していく。
48機ある直掩の半数を敵戦闘機の迎撃に回し残りは予備として残した。
敵の数は20機前後、大阪近郊に一つしか残ってない
飛行場の防衛にしては少なすぎる…どこかに伏兵が居そうだ。
電探の画面を注視する。

「中佐、下から敵が!」
艦攻隊の偵察員から無線電話で報告が上がってきた。
先程の隊とは別のP-40Qが急上昇しながら襲い掛かってくる。
それも50機ぐらいだろうか、電波を誤魔化す為に地面すれすれを飛んだとしても
あれだけの纏まった数で低空を飛ぶ敵という事は注意が必要そう。


「相手はジョージとグレイスか、楽な戦いだ!」
一方米軍側は見慣れた敵に安堵していた。
彼らは真・日本国が逆上陸を開始するまでは専ら朝鮮半島で北朝鮮軍や中共の義勇軍相手に
対地攻撃ばかり行っていたので低空飛行は朝飯前だった。
ただ戦闘機相手の戦いはあまり数は少なかった。
四国の地底エンバウーラ軍は「パンクー1」と言う戦闘機を有していたが
真・日本国の航空部隊以上に貧弱な技術力で作られていて頭数以外は大した敵ではなかった。

本来はF80とかF86が相手になる筈だったかソ連軍の動きが怪しいと言う情報が出たので
航空戦力の殆どを朝鮮半島や日本海側に振り分け技術の貧弱な
真・日本国軍相手には第二次大戦末期レベルのレシプロ機で十分と上層部は判断したのだろう。

速い・安い・頑丈の三拍子そろったP-40QならP47やP51より安いから地上支援に必要な頭数を
揃えられるし末期のレシプロ機としては決して悪くはない性能だ。
「我々に必要なのはキャデラックやジャガーノートではなくフォード・モデルTだ」
とは補給担当の士官が言っていた言葉だ。
そして我々パイロットもこの「モデルT」を信頼している。

分散した敵の攻撃隊はグレイスを含めても50機前後、こちらと同じ数だ。
ならば戦闘機のみのこちらの方が圧倒的に有利だ。
勝利を確信し我々は下方から敵攻撃隊を襲った。

「オスカーとランディ!!」
だが我々の側面から別の攻撃隊が襲ってきた。
旧日本軍なら陸海軍航空隊の合同攻撃は珍しいだろうが真・日本国軍ではそこまで珍しくない。
オスカーは身軽だが速度は出ない、ランディは爆装しているので相手にならない。
オスカーとジョージを合わせればこちらと同じくらいになる。
「面白くなってきた!」
列機がはりきりだす。

「オスカーVより速い、スーパー・オスカーか!」
オスカーは水平飛行で時速350マイルを超えている。
ハ45を搭載した一式戦は火力以外ではそこらへんのレシプロ機に引けをとらない。
我々も敵も激しい空戦機動を行う。
最高速度と降下速度はこちらの方が上だが加速力や旋回能力ではオスカーが圧倒的だ。
一撃離脱戦法に持ち込ませないように敵は様々な手を打ってくる。
(拙い!)
そう思ったときにはすでにエンジンを撃ち抜かれ落下し始めていた。
窓を開けて外に飛び出した。
パラシュートが開く、俺は着地するまでの間両軍の空戦を見守っていた。


一式戦が星子の操縦する流星改の横を飛行する。
「星子ー、無様だなー」
無線機から声が聞こえる。
「協(かな)か?」
「正解」
立川 協(たちかわ かな)陸軍少佐だ。
「電探と噴進弾を積んでいなければあれくらいの敵落とせたわ」
星子は協に反論する。
協は元は予科練の出身で真・日本国軍再編成時に海軍から陸軍に移ったのだ。
星子と同時期に予科練に入ったが、星子は甲飛、協は乙飛で二人の仲は険悪だ。
皮肉な事に甲飛の星子より乙飛の協の方が先に少佐に到達してしまった。

「協、無駄口を叩いていないで任務に戻りなさい」
無線機越しに別の声がする。
「はーい、双葉さんには敵わないわ」
そう言って一式戦は配置に戻った。
「川崎少佐もいらしていたんですね」
川崎 双葉(かわさき ふたば)陸軍少佐にエイぼん中佐が話しかける。
「ああ、エイぼん中佐。協には後できつく言っておくから」
川崎少佐も元海軍軍人で操縦練習生出身だ。
ちなみに星子やエイぼんと同い年である。
「遅れてすまない、さっきの戦闘で敵直掩機は蹴散らした。埋め合わせに先鋒は我々がやる」
「分かりました、そろそろ電子戦機が妨害電波を出すので詳しい話は後で」
「了解」
交信を終え陸軍第九飛行団は一足先に八尾飛行場へ向かった。


八尾飛行場

第666航空隊が八尾飛行場に到達した時点で既に電波欺瞞紙(ウィンドウ)がばら撒かれ近接信管と電探を無効化している。
後は目視照準の対空火器だが半数は撃破済みのようだ。
きらきらと輝くウィンドウ、地面から濛々と上がる黒煙。
我等を引き裂こうと撃ち上げられる火線。
そんな中を各隊が目標を破壊していく。

滑走路に開く大穴、目ぼしい地上施設は全て破壊された。
だが米軍の能力なら修復に一日も掛からないだろう。
これが大阪における航空撃滅戦の第一日であった。


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